機関誌「地球のこども」 Child of the earth

人の手が適度に入った「手自然」を礎に 2015.02.12

文:桐原 真希 とっとり・なんぶ手自然ネットワーク (サトノテ)

サトノテ誕生秘話

「とっとり・なんぶ手自然ネットワーク」(以下サトノテ)は、鳥取県西部に位置する南部町で自然体験企画の提供や、野生動物の調査活動をしています。コピーライターの糸井重里さんにより「手自然」という言葉が生まれた日を発足日と定めました。これは、里山・里地・山里・海里などの人と自然の折り合いを感じる環境を、総称できないかと氏が考案され、その後団体名として使わせて頂けることになりました。

市街地から僅か十数kmの場所で多種多様の希少生物(カスミサンショウウオ、ササユリ、ヒメボタル、ギフチョウなど)が見られ、また、町の豊かさを象徴するブッポウソウは町の鳥に制定されています。

kirihara02サトノテのシンボル 幸せの青い鳥ブッポウソウ

サトノテのシンボルでもあるこのブッポウソウは、トンボや、セミ、クワガタ、カブトムシなど様々な大型昆虫を捕食します。その餌資源を支えているのが、主に地域の農林業です。二次自然を寄り処にしている希少種を通して「手自然」の持つ、数字では計れない財産を有効活用しようというのが、私達サトノテメンバーの思いです。

よそ者ならではの視点でお宝発掘

実は、私も含めて活動に参加している女性陣は殆どが県外からのIターンです。外からやってきたからこそ、それぞれの持つセンサーで、地域のお宝の存在に気付けたのかもしれません。

地元に長年住んでいる方は今も「こんな何にもないところでイベントやって人が来るのかねぇ」とおっしゃいます。しかし地方には首都圏や都市部にはないものが沢山あります。その価値をすくい上げ、人を引き寄せる魅力となり、交流人口や地域に落ちるお金を増やし、あわよくば「この町に住みたい」と思わせるまでに、つながれば万々歳です。

一見自然は豊かに見えても

ウシガエルが鳴き、オオカナダモが茂り、ヌートリアが悠々と川を泳ぎ、オオキンケイギクが咲き乱れ、タイリクバラタナゴの魚影が見え、アメリカザリガニが何十匹も見える水辺を皆さんはどう思われますか?

これは南部町の、ある場所の風景です。この機関誌を読んでいる方は、きっと大問題の光景だと理解して下さることを信じています。残念ながら、生物多様性に関する教育が行き届いてない現在、多くの一般人の方は「自然がいっぱいでいいね!」と何の疑問も持たずにこの景観を喜びます。学校教育で外来種・愛玩動物・品種改良生物などの付き合い方を、マナーと生態系を絡めて必修科目にして欲しいところですが、指導要綱の改変を待ってはいられません。私達は、草の根運動的に特定外来生物や要注意外来生物の賑わいを、区別なく良しとする人を少しでも減らし、地域の財産としての里山生物の価値の底上げを狙っています。そのためサトノテでは、自然体験企画の時に、町内に生息している野生生物の背景も含めた解説を心がけています。

kirihara_zarigani釣って食べて希少種保全 ザリガニオードブル

今後の課題

2012年からは、SAVE JAPAN プロジェクトにも参加し、町内の里山をフィールドに農林業と生物多様性を基盤にした自然体験を実施してきました。しかし、当然課題もあります。参加者の多くが町外の方で、町内の方は1〜2割という低い率となっています。

kirihara04kirihara03ハンザキ(オオサンショウウオ)が見つかった!

またサトノテメンバーは、大学生や高校生など若者との交流がとても少ないという現状もあります。さらに、地元の自然について、科学的リテラシーを持って案内できる人材育成が殆ど進んでいません。地域との連携を深め、この町で育った小中学生をはじめとする若者達とのネットワークをより強化できるよう模索しています。

企画申込受付から即日満員になる程にサトノテ企画への需要はあり、都市部の方々が持つ自然体験への欲求は、想像以上に大きいと感じています。サトノテは、その受け皿として、生態系を理解する指導者がリードする良質な企画を、いかに運営していくか、地域の未来も見据えながら、これからも試行錯誤で進んでいこうと思います。

kirihara01

桐原 真希(きりはら まき)

1973年生まれ、東京農業大学農学部栄養学科卒。ハンドルネームはもりまき(morimaki)。1996年より自然観察指導員として活動。1999年に夫佳介が米子水鳥公園に転職したことにより、鳥取県にIターン。2003年より南部町民となり、「生き物センサー」をテーマに活動中。2013年からサトノテ代表。

とっとり・なんぶ手自然ネットワーク (サトノテ)

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