機関誌「地球のこども」 Child of the earth

これからの主人公 ~清里ミーティングより~ 2015.01.19

文:阿部 治 立教大学社会学部 異文化コミュニケーション研究科 教授 ESDの主流化

ESDの主流化

持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議には、世界から74カ国の大臣・副大臣と148カ国の参加者が集まりました。クローズド・セッションだけでも約1100人、サイドイベントを合わせると参加者は数千人に上りました。

世界会議では、日本が国連に対して「国連持続可能な開発のための教育の10年」を提案した、当時の日本政府ユネスコ代表部特命全権大使である佐藤禎一氏ともお会いすることができました。当時は、ESDという言葉が主流化しておらず、世界からもESDが期待されていませんでした。しかし、今回の世界会議で各国の代表者の発言を聞き、この10年間でESDが主流化してきたと実感しました。1992年の地球サミットでは、持続可能な開発について国際的に広く認識されましたが、気候変動や生物多様性が問題となるのはまだ先のことだと考えていました。しかし、これらの問題は、今私たちにとって身近なものとなりました。つまり、この10年の間で否応なく持続可能な開発に取り組まなければならない状況に陥ったため、結果としてESDが主流化したと言えます。

若者こそがこれからの主役

また、今回の世界会議で強く感じたのは、子どもだけではなく、青年を含めた存在感です。世界会議の前にユース・コンファレンスやユネスコスクール世界大会が岡山市で開催されました。そこで、世界の若者からの発言を聞き、持続可能な社会を目指すうえで、若者こそが主人公であり、チェンジ・エージェントであることを強く実感しました。しかし、日本には自分たちが持続可能な社会を作っていく当事者であると自覚を持つ若者がまだ少ない印象があります。そのため、日本の若者にはチェンジ・エージェントとしての役割を担い、30年後の社会をイメージして、具現化していくことを期待しています。

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ESDは舞台装置

ESDとは、持続可能な社会を作るための舞台装置です。人類が今後も生存するためには、持続可能な社会を作らなければなりません。私たちはこの地球という舞台で、持続可能な社会を目指すアクターであり、アクトレスなのです。

シナリオの原点である持続可能な開発という概念を1992年に私たちは手に入れました。しかし、ストーリーこそ手には入れましたが、どのように動くべきかという脚本を私たちはまだ多くは手に入れていません。今回の世界会議に関連して、NGOや企業、若者、ユネスコスクール等の団体から様々な行動宣言や提案といった小道具が出されました。これらの小道具を活用して、持続可能な社会に向けて行動していく、演じていくことが私たちに求められています。具体的な成功事例としては、自然学校が挙げられます。自然環境と環境教育をベースとする自然学校の取り組みは、地域創生の拠点として、持続可能な社会を作るための最高の脚本であると言えます。

10年の成果とこれから

日本における、この10年間の成果はマルチステークホルダーです。多様な主体が一体となり、持続可能な社会を目指し、行動してきました。

また、グローバル・アクション・プログラム(GAP)には政策的なコミットメントや包括的なアプローチ、地域とコミュニティをベースにした活動が盛り込まれています。包括的なアプローチや地域とコミュニティの課題に対しては、日本のこれまでの経験がGAPの作成に活かされています。私たちはこの10年間で世界に対して発信することができる経験を積んできました。このような成果を日本国内にとどまらず、世界に対して発信することで貢献していこうと考えています。

そのためには、マルチステークホルダーによるESD推進のためのネットワーク拠点をあらゆる地域に設置することが必要です。ネットワーク拠点については、関連省庁や議員の方々と一緒となり、設置に向けた話し合いを進めていくこととなっています。これからは、この10年間の成果が試される時です。みなさんと一緒にESDの推進に向けて今後も取り組んでいきたいと考えています。

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阿部 治(あべ おさむ)

立教大学社会学部異文化コミュニケーション研究科教授。自然と人間との関係を中心に扱う狭義の環境教育のみならず、人と人との関係などを含む広義の環境教育、すなわち持続可能な社会の形成につながる総合的な環境教育/ ESD(持続可能な開発のための教育)の理念から推進政策、事例研究にいたるまで、広く国内外をフィールドに学校、地域、企業、NGO などを対象に展開している。

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