機関誌「地球のこども」 Child of the earth

自然の中で自然に育つ 〜なぜあそびが大切か〜 2015.05.01

文:鴨川 光 ジャパンGEMSセンター

核家族化や地域社会との関係の希薄化が進む現代では、子どもたちは人とのかかわり方を身につける機会が減少しています。また、かくれんぼや鬼ごっこのように、たくさんの友だちと自分たちでルールを作りながらやる遊びよりも、テレビゲームに代表されるような、予めルールが決まっていて少人数でも楽しめる遊びが増えてきています。このような遊びの質の変化は、子どもどうしが直接かかわり合う機会を減少させています。

オランダの歴史家ホイジンガは、人間の本質は「ホモ・サピエンス(知識をもつ人)」であると同時に「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」であると言っています。「遊び」には、心や身体の発達に役立つ要素や、社会性をはぐくむ要素、こころにゆとりを持たせる要素など、人間が成長していくための要素がたくさん含まれているからです。テレビゲームやカードゲームが必ずしも悪いということではありませんが、それらの遊びでは得にくい要素もあります。特定の遊びをくり返すのではなく、いろいろな遊びを組み合わせてバランスよく遊ぶことがポイントです。

ここでは、「特別な遊び道具を使わずにできる遊び」の効果について3つの視点から紹介します。

1.考える力や心の成長を促す

「ことば遊び」や「クイズ」では、集中してよく聞く力や、ものごとを関連づけたり相手が何を考えているかを推測したり、イメージしたりする力も育ちます。お父さんやお母さんに、「なんで?なんで?」といろいろ聞きたがるのは、好奇心が育っているからです。

遊びは、感じる力も育ててくれます。遊びながら、笑ったり、残念がったり、ドキドキしたり、我慢したり、いろいろな気持ちが育ちます。気持ちが沈んでいても、友だちとおしゃべりしたり遊んだりしているうちに心が少し軽くなれば、前向きなエネルギーが出やすくなります。また、自然の中で行う「森の宝さがし」や「目だまっち」などの遊びは、子どもたちの感性を育くみます。人や自然を大切にするという気持ちの芽が遊びを通して出てくるのです。

2.人と関わる力を育てる

ペア遊びの場合

ペア遊びでは、相手をよく見たり、相手のペースに合わせたりするので、自然と相手のことを理解したり、相手にわかりやすいように伝える力が育っていきます。例えば、「モデル・粘土・芸術家(「笑いがつくる安心世界」二宮孝)」では、モデル役の人のポーズをよく見て、粘土役の人の身体を動かします。モデル役の人は、相手が真似できそうなポーズを選ぶ必要がありますし、一方芸術家役の人は、粘土役の人がどこまで身体を伸ばしても大丈夫かを気遣うなどの力を使います。

集団遊びの場合

集団遊びには、自分から仲間入りをしたり、一人でいる子を仲間に呼び込んだり、意見の対立を話し合いで解決したりと、社会の中で生活していくための大切な要素がたくさん含まれています。これらの力を効果的に育てるうえで、遊びが「楽しい」ということが重要になります。遊びの中で怒りや悲しみなど負の感情が生じても、友だちと一緒にその遊びを続けたいという思いがあるので、子どもたちはルールを破らないように自分の感情をコントロールしようとするようになります。

3.エネルギーを発散する

子どもはエネルギーの塊です。身体の内側から湧き上がってくるエネルギーによって、常に動きたくてうずうずしています。このエネルギーが健全な形で発散されないと、おしゃべりが止まらなくなったり、お友達をたたいてしまったりという行動につながってしまうことがあります。身体全体を使う遊びをしてエネルギーを発散させることで、子どもたちが落ち着いて活動できるようになり、すっきりとした気持ちで過ごすことができるようになります。
身体を使った遊びでは、目で相手を追い、耳で周りの音や声を聞き、どう動くかをさっと身体に指令を出す必要があるので、身体全体のバランス感覚が育ちやすくなるという効果もあります。遊びにはわくわく感があるので、「もっとやりたい」という気持ちになりやすく、ただ筋トレや持久走をするよりも子どもが運動に乗りやすいようです。「バナナ鬼」や「カルガモファミリー」(「人と触れ合う楽しさを 感じて欲しい 〜大勢で あそぶ ダイナミックなあそび〜」鎌田晴美さん)などでおもいっきり身体を動かしましょう!

心に「ゆとり」が生まれる

都市化によって遊び「空間」が減り、塾などの過密な習い事で遊び「仲間」と遊び「時間」が失われるという「三つの『間』の喪失」が、子どもの遊びを室内遊びに限定してしまっているといわれています。また、外遊びよりも内遊びをする子どもの方が、攻撃的になりやすいという研究結果もあります。「三つの『間』」がなくなることで、子どもたちの心にも隙間(ゆとり)がなくなってきているようです。

ささいなトラブルでカッとなっていた子どもたちが、しばらく一緒に遊んでいるうちにお互いに相手を気遣えるようになる光景を目にします。ストレスで頑なになっていた心が遊びの中でほぐされ、ゆとりが出てくるのでしょう。これは、子どもだけでなく大人にも当てはまることです。時には、大人同士でも遊んでみてはいかがでしょうか。

そして、子どもたちはお父さんやお母さんと遊ぶのが大好きです。きっといっぱいふれあってくれる、見てくれることで安心できるのでしょう。子どもがすり寄ってきたら、何か嫌なことがあったり、不安だったりするサインのことが多いです。お父さんやお母さんたちは、忙しい生活の中で遊びの時間をつくるのは大変かもしれませんが、ちょっとした時間を使っていろいろな遊びを楽しんでみてください。

kamo

鴨川 光(かもがわ ひかる)

1987年茨城県生まれ。ジャパンGEMSセンター研究員。 早稲田大学大学院教育学研究科修了後、2013年6月より現職。子どもの思考力や社会性の発達について研究している。ワークショップやボランティアを通して子どもたちと一緒に成長中。

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