機関誌「地球のこども」 Child of the earth

Awareness 気づきの力を育てる アースマンシップ にききました【東京都】 2016.08.15

写真:©アースマンシップ

文:岡田 淳(アースマンシップ)

長かった冬がようやく終わり、もうすぐ新緑の若葉が出るという頃、私たちは秘境の滝をめざして源流の渓谷を歩いていた。雪解けの沢水はまだ冷たく、谷に人が歩いた気配はない。

この時期、ここでカモシカには出会っても人に出会ったことは一度もない。初めて来た時は道の見えない峡谷であったが、その後ひとりで何度も来たので奥までの道はわかっていた。

だいぶ歩いた時、後ろの誰かが言った。「この先どうやって行くんですか?」

前を見ると、確かに谷全体が岩の壁に囲まれていて、人が歩ける道が全くない。そんなはずはないと目を凝らしたが、やはり道は全く見えなかった。黙って立ち止まった。話すことをやめ深く息をし、山に祈るように自らをゆだねた。すると体の力がすーっと抜けて、急斜面に古い踏み跡が現れた。ああ、やっぱり目の前にあった。

©アースマンシップ

©アースマンシップ

いつの間にか私は、人間相手にがんばる自分の思いが自分を支配し、そこに広がる大自然とのつながりを失っていたのだ。大地とつながる気持ち、その声を聴く謙虚な心と術(すべ)、そうしたものが周囲の状況を察知する重要なサバイバルの道しるべとなることを、あらためて教えられた。

「気づき」それを英語でAwareness(アウェアネス)という。ちょっとした小さなことに気づく力、重要なことを見抜く力。そして大きな地球の営みを理解し、自分たちの生きる道を知ることも深い気づきであり、アウェアネスである。そのために最も必要なのは、自分が謙虚な気持ちをもつことだろう。謙虚になって初めて自然は語りかけてくれるし、そこにある重要なメッセージを聴くことができる。

地球の自然や気象などすべてが分かりにくくなった今日、「自然学校」は知識や技術だけの学びではない、人としての真の基本、「心」を学び育てられる場所であるべきだろう。今、まわりで起きていることはとても複雑に見えるが、私たちが行くべき道は意外とシンプルかもしれない。

okada

岡田 淳(おかだ じゅん)

自由学園理学部卒業後、カリフォルニア州立大学を経てユタ州立大学(環境学)を卒業。その後シエラクラブでインターン、コロラド・アウトワ-ドバウンド・スク-ルで野外教育指導者コース修了、トム・ブラウンのトラッカ-スク-ルでアメリカ先住民の古老、グランドファ-ザ-の教えを学ぶ。1996年アースマンシップ自然環境教育センターを設立。2014年から特定非営利活動法人アースマンシップとなり現在に至る。

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