機関誌「地球のこども」 Child of the earth

宇宙から見た地球 2016.06.04

文:鈴木 明子(宇宙航空研究開発機構(JAXA))

世界の宇宙飛行士の言葉と共に、地球のすばらしさについてお話します。

最初の1、2日は、みんなが自分の国を指していた。3、4日目は、それぞれ自分の大陸を指さした。そして5日目にはみんな黙ってしまった。そこにはたった1つの地球しかなかった。

1985年、サウジアラビア共和国から初めて宇宙を旅したスルタン・サルマン・アル・サウド宇宙飛行士が、宇宙から地球を見つめながらつぶやいた言葉です。

彼はアラブ諸国から初、イスラム教徒としても初の宇宙飛行士でした。彼が搭乗したスペースシャトル・ディスカバリー号には、ほかに5人の米国NASAの宇宙飛行士と、1人のフランスの飛行士が搭乗し、7日間の宇宙の旅を共にしていました。

今は役目を終え、ワシントンD.C.のスミソニアン博物館で子供たちに囲まれながら静かに時を過ごすディスカバリー号ですが、現役時代には1984年から2011年までの間に39回飛行し、365日と12時間宇宙に滞在するとともに地球を5,830周回しました。

私にはそのうちの5日間で起きたサウド飛行士の心の変化が先の言葉にすべて表れているように思えてなりません。たった1つの地球の前には、国籍も人種も宗教もなく、宇宙と地球と人類という価値観だけが存在する。サウド飛行士の言葉からそんなふうに想像をめぐらすと、地上にいる私でさえ地球に対して愛おしさとともに、どこか敬虔な気持ちを抱いてしまいます。そう、宇宙から見る地球には人の心を揺り動かす人智を超えた力があるようです。

もう少し、世界の宇宙飛行士が残した数々の言葉の中から、地球のすばらしさに触れた言葉をご紹介しましょう。

月で親指を立てると、親指の裏に地球が隠れる。我々はなんと小さな存在だろう。だが何と幸せだろう。

アポロ13号のジム・ラヴェル船長の言葉です。1970年、アポロ13号は月を目指して打ち上げられましたが、途中で酸素タンクの爆発が起きて、命からがら地球に帰還しました。帰還ドラマの解説は同名の映画に譲りますが、この言葉にも月面着陸をあきらめたラヴェル船長が、地球に帰る時考えたこと、感じたことが凝縮されているように思います。

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アポロ13号から見た地球

スペースシャトルの飛行高度は600~700キロメートル。そこから見える地球は、足元に広がるように球面の一部が見えます。つまりスペースシャトルからは地球が青いヴェールをまとったように、悠々と広がって見えるのですが、地球から月までの距離は38万キロメートルもあるので、月から見た地球は遠くのほうに丸いお盆が浮かんでいるように見えるのです。誰もが知っている丸い地球の写真はアポロ11号が月面着陸した際に人類に届けてくれた最大級の贈り物だと思います。

地球は非の打ちどころがないくらい丸かった。宇宙から地球を見て、「丸い」という意味が私にははじめてわかった。

この言葉を残したロシアのアレクセイ・レオーノフ宇宙飛行士は、1965年に世界で初めて宇宙遊泳を行った人です。宇宙船の外に出て漆黒の宇宙で1人、文字通り自ら星になって地球という星を見たときに感じた、心からの言葉なのだと思います。

人類でこれまで宇宙に行ったことのある人(※)の数は546人(2016年3月現在)。すべての宇宙飛行体験者が、地球の美しさに息を飲み、人類のふるさととしての大切さを語っていると言っても過言ではありません。みなさんも地球のことを考えるとき、ときどき宇宙飛行士になったつもりになって、空のかなたの高いところから地上を見つめてみてください。いつも考えていることとはちょっと違う地球が見えてくるかもしれません。

※宇宙へ行った人とは、高度100kmを超えたことを意味し、弾道飛行を含みます。

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鈴木 明子(すずき あきこ)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)国際課長。地球観測衛星「だいち」のデータ利用促進、広報、国際協力調整業務等に従事。1999年~2000年にはNASAジョンソン宇宙センターの広報部門で働く。現在はJAXAと世界の宇宙関連機関との協力強化のために世界を飛び回る日々。

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