【事業名】JICA草の根技術協力事業 ブータン王国ハ県における地域に根ざした持続可能な観光開発と人材育成プロジェクト
【実施期間】2015年1月~2018年1月
【実施地】ブータン王国ハ県
【主催】独立行政法人国際協力機構(JEEF受託)
【協働】王立自然保護協会(RSPN)
インタープリテーション・スキルを学ぶ
地域のローカルガイドを育成する意義は、大きく分けて二つあります。ひとつは、地域の人々の雇用機会を拡大し、収入の向上を図ること。もうひとつは、訪れる観光客が、地域で生まれ育ったローカルガイドから案内を受けることで、より深い体験ができることです。今回、ハ県事務所を通してローカルガイドの研修生募集を行ったところ、エネルギッシュで、やる気の溢れる、20名の地元の若者たちが集まりました。
研修は、JICAが開発したテキスト(※)を用い、ブータンで多くの研修を手がけるカリスマ講師、サンゲイ・プルバ氏の主導のもと実施されました。彼は、以前JEEFがポプジカで実施したローカルガイド研修内容を習得し、今回の研修講師を務めます。インタープリテーションは、「通訳する」という意味ですが、この研修では、「自分が知っている地域に関連した知見を、外部からの訪問客に分かりやすく説明する」という意味で用いられています。
※「Interpretive Methods for Community-Based Ecotourism」というテキスト
経験豊かなベテランガイドでもあるサンゲイ氏から、インタープリテーションに必要なスキルや、ガイドに必要な資質について、目を輝かせながら熱心に学ぶ研修生たち。皆さんとても積極的で、なか日に行われた実地研修でも、唯一の外国人であった私に、こぞって「この野草に触れるとかぶれてしまいますから、気を付けてくださいね。」「あのチョルテン(仏塔)の屋根の上に石を投げて、地面に落ちなければ、夢がかなうと言われているんですよ。やってみてください。」などと、初々しくも丁寧に教えてくれました。
地域の宝探し
研修では、観光パッケージづくりのための練習として、地域の資源を分野ごとに洗い出す、いわゆる「宝探し」も行いました。さすが、この地域で生まれ育った研修生たち。以下のような興味深いアイディアが出てきました。(以下、抜粋)
- 【地域に伝わる伝承や儀式】
- ハの守護神、アプ・チュンドゥの伝説
- アプ・チュンドゥに生けにえを捧げて地域の安泰を祈願するお祭
- 妖怪人魚を鎮めるために建設された橋のお話
- 三菩薩連山(知恵の菩薩山、慈悲の菩薩山、力の菩薩山)にまつわるお話
- 今も残る鳥葬の習慣
- 【地域に残る伝統技術】
- ヒュンテ(そば粉の餃子)づくり
- 小麦粉、そば粉を臼でひく技術
- 固い乾燥チーズづくり(「ハ人の骨」という通称がある)
- ヤクの毛細工
- 伝統医療の薬草を使った治療
- 【地域の自然資源とその活用法】
- ヌプツォナパタ湖へのトレッキング、高山植物の観察
- 三菩薩連山の周遊ルートをマウンテンバイキング
- 標高約3,900メートルのチェレラ峠で野鳥観察
- 森の中での薪拾いや薬草摘み体験
- 弓矢や籠などの竹細工体験
- 家屋の床を磨くために使われる葉っぱの採取体験
- シャーマンや僧侶による占星術
これらのアクティビティが、訪れる人にとって本当に魅力的か?自然環境破壊につながらないか?といったことを今後さらに吟味し、地域の人々みずからの手で、観光パッケージを作り上げていきます。
研修の先に見えた、さらなる効果
研修を行っていく中で、他にも興味深い動きがありました。ローカルガイドになる過程が、地元の若者たちが地域を見直すきっかけになっていたのです。いざ、地域のことを部外者に説明しようとすると、意外と自分たちが、正確な情報を知らなかったり、若者同士の間でも、情報があいまいだったりすることに、皆さん徐々に気が付きました。研修生たちは、ほとんどが20代。地域の年配の方々からの聞き取り調査をし、より正確な情報を得る必要があることを痛感しました。それにより、地域での世代間コミュニケーションのきっかけとなり、ますます地域が活性化する、という相乗効果が期待されるのです。
私自身、自分の地元のことをあまり知らないし、地元の年配の方と話したこともほとんどないなあ、と、東京出身である自らのことを振り返るきっかけにもなりました。皆さんも、ふとした時、自分の出身地やいま住んでいる地域の宝探しをしてみてはいかがでしょう? 意外な発見があるかもしれません。
文責:松尾茜(JEEF職員)
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