写真:©アースマンシップ
文:岡田 淳(アースマンシップ)
長かった冬がようやく終わり、もうすぐ新緑の若葉が出るという頃、私たちは秘境の滝をめざして源流の渓谷を歩いていた。雪解けの沢水はまだ冷たく、谷に人が歩いた気配はない。
この時期、ここでカモシカには出会っても人に出会ったことは一度もない。初めて来た時は道の見えない峡谷であったが、その後ひとりで何度も来たので奥までの道はわかっていた。
だいぶ歩いた時、後ろの誰かが言った。「この先どうやって行くんですか?」
前を見ると、確かに谷全体が岩の壁に囲まれていて、人が歩ける道が全くない。そんなはずはないと目を凝らしたが、やはり道は全く見えなかった。黙って立ち止まった。話すことをやめ深く息をし、山に祈るように自らをゆだねた。すると体の力がすーっと抜けて、急斜面に古い踏み跡が現れた。ああ、やっぱり目の前にあった。
いつの間にか私は、人間相手にがんばる自分の思いが自分を支配し、そこに広がる大自然とのつながりを失っていたのだ。大地とつながる気持ち、その声を聴く謙虚な心と術(すべ)、そうしたものが周囲の状況を察知する重要なサバイバルの道しるべとなることを、あらためて教えられた。
「気づき」それを英語でAwareness(アウェアネス)という。ちょっとした小さなことに気づく力、重要なことを見抜く力。そして大きな地球の営みを理解し、自分たちの生きる道を知ることも深い気づきであり、アウェアネスである。そのために最も必要なのは、自分が謙虚な気持ちをもつことだろう。謙虚になって初めて自然は語りかけてくれるし、そこにある重要なメッセージを聴くことができる。
地球の自然や気象などすべてが分かりにくくなった今日、「自然学校」は知識や技術だけの学びではない、人としての真の基本、「心」を学び育てられる場所であるべきだろう。今、まわりで起きていることはとても複雑に見えるが、私たちが行くべき道は意外とシンプルかもしれない。
- カエルの胃は福袋!? 〜石垣島で取り組む外来生物問題〜 エコツアーふくみみにききました【沖縄】
- 幼児から大人まで 〜米子水鳥公園における長期的環境教育プログラム〜 米子水鳥公園にききました【鳥取県】
- 伝統漁法が伝える昔の宮川 大杉谷自然学校 にききました【三重県】
- 考えるっておもしろいかも!?第5回 学びの環境を考える2(ファシリテーション編)
- Awareness 気づきの力を育てる アースマンシップ にききました【東京都】
- 富山から世界へ!フォーラム参加者でつくった 環境市民宣言 とやまエコひろば にききました【富山県】
- 白神山地からのメッセージ 岩木山自然学校 にききました【青森県】
- Mission Complete (旧)NPO法人ねおす にききました【北海道】
- 地域の若者たちの溢れるパワー! ローカルガイド研修
- パート2:バングラデシュ現地からの環境レポート 〜環境問題の概要編〜
カテゴリー
最新の記事
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。