文:大西 かおり(大杉谷自然学校)
宮川に伝わる伝統漁法の動画撮影中の出来事。
「えっ? これで捕っていたの?」
地元の80代男性が実演するのは、ヨモギの根っこを輪にして、アジメドジョウをくぐらせて捕ったという昔遊び。アジメドジョウの確認さえ難しい水中で、どうやって捕ったと言うのか。
「昔は、石の上にほうきで掃くぐらい魚がいっぱいおったでな。これでも、捕れとった」
見聞きし、少し体験するだけでも、宮川が昔、どれほどの清流だったのか思いを馳せることができる。
私たちは、三年前から伝統漁法の記録と継承、川での経験の調査をしている。動画記録の他、調査の一環として町内の全小学五年生に、祖父母世代に対して川での経験についてインタビューするという夏休みの宿題も出している。
質問の一つに「宮川はきれいだと思うか?」という項目がある。祖父母世代の回答は、100パーセント「いいえ」である。国土交通省が選ぶ日本一水質がきれいな川に何度も輝いているこの川を、町の誇りだと信じていた子どもたちにとって、「祖父母世代にとっては現在の宮川はきれいではない」という事実は衝撃である。
昭和30年代に上流と中流に相次いで建設されたダムの影響や、流域の人工林化などいくつかの原因とあいまってか、昔の宮川の面影はほとんどない。潜って鮎と駆け引きし、あるいは水面から狙いをつける。完全に透き通った水と多くの魚と共に発展した漁法の数々だが、今では再現不可能になってしまったものも多い。
昨夏、大台町内小学生の約8割がほとんど川に行っていないという調査結果が出た。祖父母世代は子ども時代、ほとんど全員が週3回以上川に行っていた、という事実と比較するまでもなく、今は川に行く子どもが激減している。美しい川とか伝統漁法とか言っている場合ではなく、まず、川に行かせる工夫が大事でしょうという声も聞こえてくる。
しかし、間もなく消えゆくであろう、伝統漁法が伝える本当に美しい宮川上流の在りし日の姿を、先達から引き継ぎ伝えていく。今を生きる私たちしかできない使命なのではないかと思う。
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