パート1第3回『伝統手漉き和紙からのメッセージ』
講師:ロギール・アウテンボーガルト
こんにちは。インターン生の島津です。
「市民のための環境公開講座パート1」最終回が7月26日に開催されました。
今回は伝統手漉き和紙職人のロギール・アウテンボーガルトさんをお招きし「伝統手漉き和紙からのメッセージ」というタイトルでご講演して頂きました。
【和紙との出会い】
ロギールさんはオランダで初めて手漉き和紙を目にした際、「教会のステンドグラスに似た神秘性」を感じられたそうです。
宗教における世界観と和紙に内包された自然の空気に、ロギールさんは何か似たものを感じたのかもしれません。私もこれを聞いた後、和紙が何か神秘的なものに見えてきました。
その後来日されたロギールさんは日本各地の現場を自分の足で回ります。当時はまだ日本語が分からないながらも、職人さんたちの身振り手振りの説明から感覚的に学んでいったそうです。「職人」と聞くと堅いイメージがありましたが、本気で学ぶ人に対しては言語や国を越えて気持ちが通じるものだなと思いました。
そもそも「伝統手漉き和紙」とは何を指しているのでしょうか。それは全工程において手作業で手順が守られ生産された紙とされます。
明治期以降「和紙風」の紙を人工的に作る技術が発展してきました。今ではロギールさんの目から見てもそれは高いレベルにあるそうです。一方でそんな現状が悲しくもあるとおっしゃっていました。質としては非常に高いレベルにある中、伝統手漉き和紙が持つ意味はどこにあるのでしょうか。
【なぜ和紙なのか】
伝統的な手法を守る意味という観点から、講座を聞いてみました。
講和後、私は大きく2つ感じるところがありました。
(1) 和紙と生活
自分の生活を考えてみると、最も身近な和紙といえば障子が思い浮かびます。ロギールさんは和紙を通じた穏やかな陽の光が、日本の文化や日本人の心性形成に影響を与えてきたのではと推察していました。比較として挙げられていたのが、オランダのレースカーテンです。会場では各紙のサンプルが配られ、実際に和紙を触って光の透け方も見ることができました。
一見するとカーテンと和紙は似た光の通し方ですが、7枚の繊維の連なりである和紙を通った光は透明度がより高いように素人目ながら感じました。自然を開拓の対象とするのではなく、そのものとして受け入れる和風な自然観がよく表れているようにも思います。
(2) 和紙と環境・社会
和紙を考えることは即ち環境・社会を考えることでもあります。
環境-文化遺産には3つの地域の和紙が登録されています。それは原料や水が変われば、紙から表現されるものが全く異なるといいます。ワイルドな紙、落ち着いた紙、この感覚はまだ私には掴めませんでしたが、その土地でしか作れない紙があるということは理解できました。ロギールさんの言葉を借りれば、和紙は何かを表現するための土台ではなく、和紙それ自体が表現であるということでしょう。
社会-「畑から紙まで」というテーマの中で、収穫・干し・蒸しを手で1本ずつ近所の人と協力しつつ行っている、とロギールさんは語られました。和紙作りは文化的な豊かさを守るためだけでなく、地域によってはコミュニティを支える重要な産業でもあります。高校の教科書で見た「農村家内工業」の絵が思い浮かび、伝統と現在が未だに結びついていることを感じたりもしました。
~質疑応答を紹介します~ 質:質問者 ロ:ロギールさん
質:日本の紙幣は比較的しっかりした紙質だと感じるが、和紙が使われていたりするのか。またヨーロッパの紙幣と比較してどの点に大きな違いがあると感じるか。
ロ:1万円札に若干三椏が使用されているそう。ヨーロッパの紙幣は紙質よりデザインに偏りすぎているイメージがある。日本の紙幣の方が耐久性の面では高いと思う。また日本の紙幣の方が重みがあり、感触という点でも気に入っている。
【まとめ】
ロギールさんの講和は総花的な和紙のお話の中にも、日本の風土・植物・製紙史などの知識が散りばめられており、和紙一つをとっても全てが繋がっているのだなと強く実感しました。一つの伝統が失われれば、この大きな構造の一部分が欠けていくことになります。和紙そのものの魅力だけでなく、大局的な視点からも「伝統」の持つ意味を考えていかなければならないなと強く感じました。
ロギールさんは屋台のお店を訪れた際には、提灯を触って紙の感触を確かめたりもするそうです。こんな身近なところにこそ、和紙の魅力が隠れているかもしれません。
週末は和紙を肴に屋台を楽しんでみてはいかがでしょうか。
「市民のための環境公開講座パート2」は本日9月6日(火)から開講されます。海・山・地層など様々な切り口から、スケールの大きな自然の魅力・脅威を考えていきます!
JEEFインターン
島津