文:杉原 淳夫
ケニアの沿岸部にシモニという村があります。人口3千人程度の小さな村ですが、ここにキシテ・ムプングティ海洋公園・保護区という公園があります。この公園には美しいサンゴ礁と多種多様な海洋生物が生息しており、シモニという村の収入の多くがその観光業で占められています。
そんな美しい公園でも実は、観光客や漁具による海洋生物への悪影響、そしてゴミの散乱など多くの問題を抱えています。幸い公園を管理しているスタッフのモチベーションは高く、学校への出前授業を既に実施しており、次のステップへ進むための準備ができていました。そこへ派遣された私が実施したのは、ジョイ・パーマー氏とフィリプ・ニール氏の提唱した、次の「3つのアプローチ」を元に開発した「教育活動のパッケージ化」です。
- 3つのアプローチ
- 「環境についての教育」知の移転型・理論型
- 「環境のなかでの教育」感性学習・直接体験型
- 「環境のための教育」集団的行動・参加・対話型
この3つのアプローチをとることで、バランスのいい環境教育ができるというものです。私が提案したそれぞれのアプローチについて紹介します。
私が提案したパッケージのそれぞれのアプローチ
1「環境についての教育」
既に行われていた座学です。海洋公園の概要からはじまり、そこに生息する生きもの、そして漂流するゴミ等、できるだけ幅広い授業を効果的且つ継続的に行なえるように、教材のさらなる充実をはかり、また配属先スタッフの巻き込みにも注力しました。しかし、知識を詰め込む方法だけでは断片的な知識しか身につかず、自分で判断して行動できる人材を育成するには一歩及びません。
そこで効果的なのが
2「環境のなかでの教育」
経験することでさらに学びたいという意欲を引き出し、さらに現状把握によって危機感の醸成もはかれます。
入園料が高いために公園に行ったことのある子どもは、地域でもごく僅かでした。そこでパークツアーを企画し、資金調達、安全確保、事前のスノーケリング練習などを含めた一連の実施体制を確立しました。
3そして、最後のアプローチが最も実践的な「環境のための教育」
これは個々が、環境に対する自らの意見を持った状態で実施するのが理想的です。
例えば、ゴミ拾いという行為の意味を見い出しながら行えるように、パークツアーや砂浜でのスノーケリング練習と併せてするように構成しました。また、それらの経験を外部に向けて発信することが最終的に自分たちの資源を守ることにつながるとし、絵や音楽を使った情報発信も行ってきました。
これらのアプローチをバランスよく行うことが私の提案でした。周辺の小学校を対象とし、順番に全6週にわたるパッケージ化された環境教育を実施していきます(図1参照)。これによる効果として次のことが期待できます。
- 単発ではない継続的な巡回指導の動機づけ、きっかけづくり
- 3つのアプローチによる相乗効果
- 複数回訪問による記憶の定着とふり返り機会の創出
- 学校及びコミュニティとの良好な関係の生成
持続が可能な学びの提案が、私の活動の最優先事項でした。しかし、このパッケージ、果たして現在も引き続き使われているのかは分からず、まだまだ試行錯誤が必要と考えています。少なくとも実施スタッフ、子どもたちの中に何か刻まれたものがあれば、と願うばかりです。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。