文:佐藤秀樹(国際事業部チーフコンサルタント)
人口の増加により、ごみの排出量が増えている開発途上国の都市部では、廃棄物管理の仕組みや普及啓発が十分に機能していないため、ごみの散乱が目立ちます。ごみは、住民一人ひとりが毎日排出するので、適切な廃棄物管理を行うための環境教育が極めて重要です。
そこで今回は、特に都市部の人々の適切な廃棄物管理能力の向上を通じて、環境と調和した地域社会づくりに必要な取組みについて考えます。
リーダーシップの養成
一般的に途上国では、各都市の市役所がごみの管理を行っています。
私がこれまで廃棄物管理プロジェクトで関わったベトナム・ダナン市やバングラデシュ・ラッシャイ市では、行政の環境保全に携わるリーダーが強いイニシアチブを持ち、住民に対して街の美化を保つ普及啓発活動を定期的且つ継続的に行いました。その結果、ごみのポイ捨てが減る、時間を遵守してごみ出しを行う等の適切な廃棄物管理につながっています。
さらに行政に求められることは、街の廃棄物管理や環境保全のリーダーシップを発揮できる人材育成を進めていく、段階的な研修プログラムの開発・実施・評価等を取入れること。そして環境リーダーが継続的に育成され、地域に根付く仕組みづくりです。
様々なステイクホルダーが連携する必要性
街の廃棄物管理には、行政、企業、NGO、市民、ウエイスト・ピッカー(ごみ拾い人)やリサイクル業者等、様々な人たちが関わっています。しかし、その多様なステークホルダーを巻込んだ横の連携による取組みが脆弱です。
それを解決するためには、各関係者の代表が地域のごみ管理に関する現状や課題について、定期的に意見交換のできる場を創出し、ごみの適切な協働管理体制を構築することが極めて重要です。
特に、私が現在バングラデシュのクルナ市で実施している「ウエイスト・ピッカーの労働・生活環境改善支援事業」では、ウエイスト・ピッカーが地域のごみを分別・回収して廃棄物仲介業者に売り渡す等、地域の資源循環や環境保全に大きく貢献しています。彼らは重要なステークホルダーと言えるでしょう。
考え-楽しみ-行動するごみ教育の教材開発と普及啓発
学校、自治会や家庭において、ごみ教育が十分に行われていないのが現状です。街の廃棄物処理を管理する市役所でも、市民への普及部門ではごみ教育の教材や人材不足に直面しています。学校では、清掃する人が雇用され、日本の小学校のように生徒が教室を掃除する習慣はほとんどありません。、街中や家の前に散乱しているごみは、廃棄物管理を担う市役所が処理すべきだという考え方が主流です。
ごみとはそもそも何か。分別の仕方や、排出されて最終処分されるまでの一連の流れについての住民の理解は十分ではありません。そのため、適切なごみ管理のあり方について考え、楽しく学びながら実際の日常生活の中で行動に移していけるよう、教材開発とその普及啓発による能力の向上、そして地域での人材育成が必要となります。
例えば、バングラデシュのクルナ市では、廃棄物管理やウエイスト・ピッカーについて学ぶクイズ付きフリップカード、カルタやボードゲームを開発し、40の小中学校で普及啓発やその学びを活かして学校・地域での清掃活動等を行っています。
開発途上地域での廃棄物管理能力向上のための環境教育には、高いニーズがあります。日本が培ったごみ教育の知見や経験を、途上国の実情に合わせて技能移転していくことが、途上国の環境調和型地域づくりに大きく貢献できるものと思います。
ワークシート
あなたが、アジアのある開発途上国で市民を対象とした廃棄物管理教育を行うことになった場合、どのような教材(プログラム)の種類や学習内容等について考えますか? アイディアをだしてみましょう!
画像をクリックすると誌面のPDFがダウンロードできます。
- 韓国・水原市で第17回目となる TEENシンポジウムとワークショップが開催されました。
- 考えるっておもしろいかも!? パート3:最終回 かもブータンに行く
- 皆さんの買い物と地球温暖化・気候変動
- 最先端マーカーを使ってエネルギーを考えよう!
- 教材を使った「考える」ワークショップの提案(エジプト)
- パート3:開発途上地域(アジア)の地域デザイン第4回 〜市民の適切な廃棄物管理能力の向上で環境調和型地域社会づくり〜
- 選んで 楽しむことで生産地とつながる 〜よくみる企業の裏側 99%達成! スターバックスの倫理的なコーヒーの調達〜
- 高校生の挑戦! ブータンのためにお土産を作りたい!
- わたしたちができること 〜エシカルな選択が未来を変える〜
- マングローブ再生とエビの伝統的加工技術の促進による持続的な自然資源の利用を目指して
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