機関誌「地球のこども」 Child of the earth

2枚目の名刺が生み出す3つの変化 2018.03.30

文:廣 優樹(NPO法人 二枚目の名刺

「2枚目の名刺」と聞いて、皆さんはどんな印象を持ちますか?

従来は、本業以外の収入を得るための副業ということを思い浮かべる人が多かったのではないでしょうか。 そしてその多くの場合「隠れてやる」「小遣い稼ぎ」をイメージし、ややネガティブな印象もあったように思います。しかし、最近、そのような従来の副業とは異なる、本業(所属する組織)外で社会を創る活動に取り組む人が増え始めています。

こうした取り組みでは、必ずしもお金を得ることを主目的にせず、また自分のためだけの趣味としてでもなく、活動のベクトルを社会に向けていることが特徴です。勿論、これまでも自身が住む地域のことや、子どもに関係するPTA等の取組みに参加してきた人たちはたくさんいました。最近では「こんな社会になったらいいな」という、いわばマイミッションをもとに、本業とは別の名刺を持ち、社会の新しい仕掛けづくりに取り組もうとするケースが増えてきているのです。

2枚目の名刺は3つの変化を 同時に実現

1)普段の組織や立場の外
NPOの活動等で生み出す変化

自分のスキルや専門知識を活かした、所謂「プロボノ」としてボランティア活動を行うだけではなく、取り組みのミッションに共感した時は、スキルや経験の有無にかかわらず挑戦・参画するというケースもあります。勿論、自らプロジェクトを立ち上げる事例もみられます。こうしたプロジェクトの面白さは、自身の組織や社会の制度といった、既存の枠にとらわれないことを手掛けられる点です。

あるプロジェクトでご一緒した、ろう教育に取り組むNPOの理事の方は、放送作家をやりながら、ろう教育の新しい形を目指して、日本初の私立のろう学校を設立しました。彼女は「モットーは、社会にないものがあるのなら、自分が創りだせばよい」と話してくれます。
普段の仕事や役割のほかに、2枚目の名刺を持ち、自分で考え、行動することで、社会の変化が生み出されるのです。


2)2枚目の名刺を持つ
本人に訪れる変化

会社の中で閉塞感を感じる若手社員。人生100年時代と言われこれからの人生の歩み方に悩むミドル社員。母親という立場に追われ自分を見失いがちなママたち。それぞれ置かれた状況は違っても、2枚目の名刺を持った時に訪れる、強い情熱でプロジェクトを推進するリーダーたちとの出会いは、大きく気持ちが揺さぶられる経験となります。そして、組織や立場に過剰に適応し、抑え込んできてしまった自分の価値観がはっきりしてきます。自らの仕事や人生を再定義する機会になる方も少なくありません。

また、2枚目の名刺を持ちプロジェクトに取り組むと、バックグラウンドの異なるメンバーと協働することになります。価値観も異なるメンバーと一緒に、正解のない社会課題に向き合うことは、必ずしも簡単なことではありません。しかし、そうした多様性を受け入れつつ、試行錯誤を繰り返すことが、大人の新たな学びの場になっているのです。

最近では、こうした気づきや学びについて、「越境学習効果」があるとして注目が集まり、研究が進められています。このほかにも、これまでの居場所から一歩踏み出した時、予想もしなかったような出会いと次の展開が待っています。このセレンディピティ(偶然の出会い)を楽しめるとステキな人生につながるのではないでしょうか。


3)2枚目の名刺を持った社会人が所属する 
所属組織にもたらされる変化

企業では、社内で育てることができない能力について、組織外に社員を送り出す(越境させる)ことで、人材育成を図ろうとする動きがあります。また、社会課題=人の満たされていないニーズとして捉え、それを新たなビジネス機会の探索の場になることに注目する企業もあります。これまでにない刺激やネットワークを組織に還元することが、組織にとっての変化を生み出すきっかけになるのです。


上記ように、2枚目の名刺を社会人が持つと、ソーシャルセクターの変化、社会人の変化、そして社会人が所属する組織の変化、というように同時に好影響が生まれることになります。

働き方改革では副業解禁が焦点の一つです。働き方はこれから間違いなく変わっていきます。人生100年。自分がオーナーシップを持って自分の人生を歩むことができるのか。2枚目の名刺を一つの選択肢として、自分の価値観を大切に、既存の枠にとらわれず、自分の頭で考え行動することが、自分の人生を豊かにしていくはずです。
そして、大人たちがその背中を次世代の主役である子どもたちに見せることが、子どもたちにもきっと刺激になるはずです。

廣 優樹(ひろ ゆうき)

2009年、「二枚目の名刺」を立ち上げ、本業で持つ1枚目の名刺の他に、社会を創ることに取組む個人名刺を“2枚目の名刺”と位置付けた。新しい働き方、人材育成のあり方として、企業、行政、アカデミアなど多方面から注目。日本銀行、経済産業省でのパブリックセクター経験の後、現在は商社で食料部門の海外事業開発を担当。4児の父。

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