機関誌「地球のこども」 Child of the earth

危険を予知する コミュニケーション 2019.02.08

文:竹田 宜人(横浜国立大学)

子どもたちが自分で考え、判断するためには、大人と共に身のまわりのリスクを適切に把握することは大きな助けになります。行政やメディアの情報に頼るだけでなく、事が起きる前に自分たちでできるリスクコミュニケーションについてご紹介します。

平成も最後となった2018年、環境問題においてクローズアップされた話題にマイクロプラスチックや極端な気象現象があります。いずれも新しい問題ではなく、廃棄物や地球温暖化問題において、ある程度予測されていたものではありましたが、特に後者の極端な気象現象の顕在化は自然災害として私たちの生活に影響を及ぼしています。

将来の自然現象の変化は、科学的な根拠に基づき予測されますが、減災を目的とした私たちの生活への影響については、それぞれが経験や現状を踏まえて自ら予測する必要があります。環境学習のテーマの一つである地球環境の保全は自然災害の軽減とその目的を同じくしているとも言えます。

火の雨が降る?想像外の事故が起こることも

平成30年7月西日本を豪雨が襲いました。この災害では、アルミリサイクル工場の爆発火災という大きな事故が起こっています。(※1)

大雨が降り、洪水や土砂崩れなど災害が予想されるとき、「気象災害への警戒の呼びかけ」が気象庁から発表されます(特別警報、警報や注意報)。その情報に基づいて、市町村は避難指示や避難勧告など、住民に対して災害のリスクから逃れるための行動をするよう指示が出されます。

この工場の事故では、既に避難指示は出ていましたが、炉の停止作業が間に合わず、水が浸入してしまったようです。大雨の中で火の雨が降るという、まさに想像を絶する事故が起こったのです。

※1 山陽新聞
アルミリサイクル工場の事故は、あふれ出た水がアルミ溶融炉に浸入し、溶融したアルミに水が接触して水蒸気爆発を起こしたと考えられており、周辺の民家に飛散物で火災が起きたほか、爆風で多くの建物に被害が生じ、けが人が出たとも言われています。

想定外を想像する

自然災害は私たちの社会と、厳しい自然現象の接点で生じます。そして、常に同じではなく、人間社会と自然現象の双方の変化で形を変えていくものなのです。

リスクとは将来に予想される危険のことを示しています。例えば、台風が接近してきたとき、どのような自然現象が起こるか、ということは科学的にある程度の予測は可能です。しかし、住んでいる地域や自分の生活にどのような影響が起こるのか、ということは、それぞれの地域コミュニティや組織、個人が予測するほかありません。危険を予知する、ということは、危険を想像するということなのです。

想像するための対話

その想像を支援する機能にリスクコミュニケーションがあります。言葉の通りリスクに関する対話ですから、専門家や行政から提供される気象現象の予測に関する情報(台風なら、予測される雨量や風速、ピークの時間、洪水の恐れなど)、地域の浸水や土砂災害の危険性に関する情報(ハザードマップなど)を使って、自らの地域や生活にどのような影響があるかを想像し、疑問点があるなら専門家や行政に尋ね、対策に不足があるなら逆に提案するなどの活動を言います。

先述の事故で言えば、「この雨で洪水が起こるだろうか、洪水が起こったら自宅や近くの工場はどうなるだろうか」といったことを住民も事業者も考え、必要であれば対話し、対策を一緒に考えるということになります。

しかし、災害が迫ってから、急に工場と対話をすることは難しいことです。平常時から、地域住民と工場が地域のリスクについて話し合い、情報を共有し、事前にどのような準備をしておいたら良いか。いざというときに、どのような行動を起こすか、ということを予め相談しておくことが必要です。このような活動をリスクガバナンスと呼び、(図1※2)リスクを管理するための対話をリスクコミュニケーションと呼んでいます。

※2 文部科学省:リスクコミュニケーション案内(pdf)
http://www.mext.go.jp/a_menu/suishin/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/19/1397354_001.pdf

図1:リスクガバナンス

演習してみよう

この活動は多くの企業が実際に地域社会と取り組んでいますし、私たちはそのための演習を企画し、実践しています。その演習は次のようなものです。

演習の流れ

あるシナリオを提示

このような状況(気象現象や地域の状況)でどのような災害が想定されるかを想像する

住民として企業や行政に何を確認しておくべきか、どのような提案ができるか、ということを考える。

現在は、大学院の講義や企業の関係者向けの講習として行っていますが、小中学生でも取り組める内容と考えています。
災害を減らす(減災)には、地域社会の状況や自分の生活を顧みて、どのような災害が起こるのか、自分たちの生活にどのような影響が起こるのか、想像することが重要と言えるでしょう。

竹田 宜人(たけだ よしひと)

1960年12月7日生まれ。静岡県出身。横浜国立大学大学院環境情報研究院客員准教授。リスクコミュニケーション、災害情報学が専門で風評被害や工場のリスクと地域住民の対話が主な研究テーマ。年間2回はフルマラソンを走ることにしている。

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