文:古川 健(公益財団法人ふくしま海洋科学館)
東北最大級の楽しく学べる体験型学習館「アクアマリンふくしま」の副館長古川さんに、環境水族館宣言に則った展示や普及活動の実例についてうかがいました。
アクアマリンふくしま(ふくしま海洋科学館)では、開館3周年に当たる平成15年7月15日に、左記の内容の環境水族館宣言をしました。
環境水族館宣言!
- 理想の環境展示をつくり出す。
- 体験学習の場を整備し環境に優しい次世代の育成を目指す。
- 自然環境の保全を市民と共働して支援する。
- 絶滅危惧種の繁殖育成の研究に取り組む。
- グローバルに情報発信し世界の保全活動と共働する。
当館が、この宣言に基づいて実施している教育普及活動の一部を紹介します。
体験学習の場を整備する
山・川・海の水の循環をテーマに体験学習の場として、次の施設を開設しました。
- 淡水のビオトープ「BIOBIOかっぱの里」
- 海岸の環境を再現した「蛇の目ビーチ」
- 里山の環境を再現した「わくわく里山・縄文の里」
ここで開催するプログラムをとおし、観るだけでなく五感を使って生命を体感させることで、子どもたちが「自然への扉を開く」機会を提供しています。
理想の環境展示をつくり出す
当館の最大の特徴は、施設がガラス構造でできていることです。ガラスを通してふり注ぐ太陽光により、水中の無脊椎動物や魚類だけでなく、水陸双方の植物の展示も行い、トータルに環境を再現し、望ましい自然環境の姿や多様な生物を観ることができます。
環境に優しい次世代の育成を目指す
館内の大水槽では、カツオやマグロがマイワシを捕食する様子を観ることができます。これを観て「喰う喰われる」という食物連鎖の現実を知ることができます。
また、子ども体験館「アクアマリンえっぐ」では、屋内に「生きる、死ぬ」「生きるための工夫」「生物の多様性」等のテーマを設けた生物の展示をしています。
屋外には釣り場を設け、釣った魚を自分で捌いて食べる機会を提供しています。
これらにより、私たち人間は、さまざまな生き物の命のつながりによって生きていることや命を頂戴する意味を考える機会を提供しています。
自然環境の保全を市民と共働して支援する
福島県は、平成23年の東日本大震災で大きな被害を受けました。中でも原発事故による放射能汚染は、未だに農林水産業や観光業に深刻な打撃を与え、さらには除染のために森林を伐採するなど、直接的な環境への影響も出ています。
当館では、独自に放射線量の測定装置を導入し、地元の方々に魚やイノシシ、山菜などのサンプルを提供してもらい線量検査を実施しています。その結果を館内で公表すると共に、安全な県内の食材を使用した料理教室や、来館者に料理を振る舞うプログラムを行っています。
この他にも地域の方達の協力を得て、大型プランターを使った福島県伝統野菜の栽培や県内の木材を使用した炭作り、県内の杉を使用した伝馬船(櫓漕ぎの和船)の造船などをしています。
これらの活動をとおして、福島県の現状を国内だけでなく世界に向けて情報発信をすると共に、地域住民の目を環境に向かせ、さらには地元の農林水産業の活性化に寄与していきたいと考えています。
1999年の中央環境審議会答申において、環境教育とは「(前略)自らの責任ある行動をもって、持続可能な社会の創造に主体的に参画できる人の育成を目指す」と定義づけられました。
当館の「命の教育」が目指すものは、環境教育と変わりません。しかし、より個々の生活や社会活動に密着した普及活動を実施していきたいと考えています。ぜひ、皆さんも環境水族館アクアマリンふくしまで命を体感してください。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。