文:関根 健吾 公益財団法人 キープ協会
「インタープリテーションinterpretation」という言葉は、一般的には「解説・翻訳・解釈」といった意味がありますが、ここでは「自然の知識や情報だけではなく、その背後にある意味や関係を伝える行為」をいいます。「インタープリターinterpreter」は、そうした役割を果たす人です。また、インタープリターが行う一連のインタープリテーションを「プログラム」ということにします。
さて、インタープリターとして人前に立ち、インタープリテーションを行うとき、目の前の相手に向けてどのように伝えたらよいのか、態度、表情、声、言葉、動き、小道具など、具体的な方法や技術を、まずは考えてしまいがちです。いずれも効果的なインタープリテーションを行うためには大事な要素ですが、これはあくまでもインタープリター自身のふるまいに関するものです。
伝えるという行為は、それを受け取る側(ここでは参加者とします)の存在なくしては成立しません。インタープリターは「何をどのように伝えるか」を考える前に、参加者が「それを受け取る準備ができているのか」を、まずは考える必要があると思います。参加者の受け取る準備ができていなければ、一方的に「伝える」ことはできても、真の意味で「伝わる」ことは難しいのではないかと思うからです。
プログラムの前からプログラムは始まっている
そこで、プログラムを行うにあたり、参加者の準備時間とでもいうべき時間がまずは必要になってきます。これはプログラムの冒頭や導入に取り入れられる「アイスブレイキング」が一つの例でしょう。参加者の不安や緊張を氷(アイス)にたとえ、その氷を壊して(ブレイク)、参加者同士やインタープリターとの打ち解けた関係をつくることです。アイスブレイキングといえば、小道具を使ったゲームなどが思い浮かびますが、必ずしもそれだけではなく、照明やBGMなど会場の雰囲気づくり、インタープリターの声や表情なども、アイスブレイキングの効果をもたらします。プログラムは短いものでは30分~1時間程度ですので、最初の雰囲気や印象が、インタープリターと参加者との関係をそのまま決めてしまうこともあります(場合によっては最後まで…)。
アイスブレイキングを通して、まずは参加者に「この場は安全だ」と思ってもらい、さらに「次はどこに行くのだろう」「もっと話を聞いてみたい」などと思ってもらえたらなら、参加者はインタープリターが提供するものを受け取る準備ができているといえるでしょう。
それでは、インタープリターと参加者との関係は、いつから始まるのでしょうか?プログラムを始めるときの第一声? 受付での挨拶? 駐車場での誘導? 申し込みを受けたとき? プログラムの告知を始めたとき? …と、どこまでも戻ってしまいそうですが、いつでも(プログラム以外でも)参加者に対してオープンかつウェルカムな気持ちを持つことは大事です。自戒を込めて。
参加者体験から学ぶ
JEEF主催の「※NEC森の人づくり講座」は、学生を対象にした環境教育の講座で、キープ協会が運営に協力しています。講座では、学生自身が20分程度のプログラムを組み立て、お互いに発表しあうという実習を行います。実習を通して、インタープリター・参加者双方の視点を得ることで、まさに「伝える」「伝わる」とは何かを考えます。学生は一からプログラムの台本を書くことになるのですが、多くの場合、その台本はインタープリターの視点からのみで書かれています。そして、実際に参加者を前にし、プログラムを行うときに気づきます。参加者の反応や動き、感情までは、台本に書き込んでいなかったことを。
学生は発表後、改めて参加者の視点から、自分たちが作ったプログラムをふりかえります。参加者が期待することは? うれしいことは? また、苦手なことは? 飽きてしまうことは?参加者のふるまいから、より効果的な伝え方を見出すのです。そのヒントは、インタープリテーションだけにとどまらず、日常のあらゆる場面に潜んでいます。そして、参加者を知るには、自分自身の参加者体験が何より大事であるということに気づいていきます。
参加者を待つ
効果的なインタープリテーションを目指して、日々試行錯誤をしていますが、インタープリテーションは、やはりインタープリターと参加者の相互作用で成立するもの、つまり、望ましいコミュニケーションの形ができてこそ、はじめて「伝わる」インタープリテーションができるといえます。最後に私がいつも心がけていたいと思うことをご紹介します。
インタープリターと参加者とのやり取りを、キャッチボールにたとえるならば、これまで書いてきたことは、「インタープリターは、ボールを投げることだけに夢中になってしまう」ということでしょう。しかし、その先に陥りやすいこととして、投げ続けていないと不安になり、「次から次へと矢継ぎ早に投げてしまう」ことがあります。参加者はインタープリターから投げられたボールを受けて、それを「投げ返そう」としているのに、それをインタープリターは待てないのです。
参加者を待つ。参加者が受け止め、考え、投げ返す、その過程に参加者の気づきや学びがあるのならば、待つことは投げること以上に大事にしたいことです。そして、参加者から投げ返されたボールに、こちらが伝えようとしているメッセージが乗せられているのならば、きっとそれは、参加者に「伝わった」といえると思うのです。
関根 健吾(せきね けんご)
公益財団法人キープ協会 環境教育事業部(キープ・フォレスターズ・スクール)埼玉県入間市出身。2004年に自然学校指導者養成講座(第5期)を受講後、2005年より現職。大学で専攻した「社会学」、関心のあった「教育」、そして好きな「自然」が結びつき、今の仕事に。現在は、企業との協働事業や指導者養成事業などを中心に、幅広く環境教育に携わる 。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。