前回のコラムで書いた生ごみを循環させる範囲の「半径2km」。この規定はもともと循環生活研究所(通称:じゅんなま研)が設立されたきっかけのお話に繋がっています。
循環生活研究所の設立者であるたいら由以子は私の母です。彼女の父(私の祖父)は24年前に肝臓癌でこの世を去りました。癌だと診断されたと同時に2ヶ月の余命宣告をされたといいます。
病院を駆け回るも出てくるのは数値だけ。家族会議で選択したのは「食養生」という命のチャレンジでした。食は栄養士の資格を持っている母が担当し、毎日幼い長女(私の姉)を背負って何時間も自転車で走り回って無農薬の野菜を探しました。しかし、見つけた野菜は値段が高くてしなびたものばかり。それでも大切な人の命のために必死で探し、毎日食事をつくりました。食養生の効果は大きく、2年も命が伸び、その間一度癌が消えたこともあります。母にとって「食が人の存在そのものを左右する」そう感じる瞬間でした。
当時、看病するために閉じ込められた範囲が「半径2km」だったといいます。半径2kmをわかりやすく定義すると「自転車で回れる距離・主婦が感じる生活圏」といったところでしょうか。これをじゅんなま研が栄養循環の範囲と定義した後、地産地消の定義やスポーツクラブの設置単位も大体半径2km単位だということがわかってきました。
みなさんが中学生の時、お隣の校区まで自転車で遊びに出かけたり、近所のおじさんについて知っていたり、裏道やお店の場所を把握していたり…といった経験がありませんか?その時ってなんとなく半径2kmで生活していたのかもしれません。つまり、半径2kmとは「物事を自分ごととして捉えることができる範囲」なのです。
大きな範囲で栄養を回すとどうしてもモノの運搬や人の移動で出費や環境負荷が大きくなりますが、半径2km圏内ではコストや環境負荷が小さくなるだけでなく、住民ひとりひとりが小さな栄養循環を自分ゴトとして捉えることができます。これから半径2km単位での栄養循環を可能にした仕組み「ローカルフードサイクリング(LFC)」の事例紹介をみていきましょう。