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温暖化で変わる気候と防災(3)梅雨期の大雨 2023.06.15

5月~7月は、各地で梅雨になり曇りや雨の日が多くなります。日本付近ではこの時期、冷たく湿った空気の塊であるオホーツク海高気圧と暖かく湿った空気の塊である太平洋高気圧が押し合い、両者の間にできる梅雨前線と呼ばれる前線が停滞しやすくなります。前線付近には上昇気流があるため雲ができやすく、曇りや雨の日が多いのです(図1)。

図1: 梅雨前線のしくみ『もっとすごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)

梅雨前線が停滞すると、前線の北側には「乱層雲(雨雲)」という雲が広範囲に広がり、シトシト雨が降り続くことが多いです。逆に、前線の南側には太平洋高気圧の縁を回って多量の水蒸気が流入し、「積乱雲」が発達して土砂降りの雨になることがよくあります。積乱雲は「雷雲」とも呼ばれ、上へ向かって勢いよく成長する雲です。一つの積乱雲は、横方向の広がりが数km~十数kmと狭く、もたらす雨量は数十ミリほどで、通り過ぎてしまえば雨は上がります。しかし、複数の積乱雲が組織化すると集中豪雨をもたらすことがあるのです。その一つが「線状降水帯」です。線状降水帯は、積乱雲が風上側で次々と発生して連なることで、狭い範囲の同じような場所に数時間にわたって強い雨を降らせ続けます(図2)。

図2:線状降水帯のしくみ 『すごすぎる天気の図鑑 雲の超図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)

特に梅雨末期は、夏に向けて気温が上昇してくることに加え、太平洋高気圧の張り出しが強まり周囲で吹く風も強まることで、多量の水蒸気が前線付近に運び込まれるようになります。このため、九州地方など西日本を中心に線状降水帯が発生して、雨量が数百ミリにもなる集中豪雨が起こりやすくなり、河川が氾濫したり土砂災害が発生したりするのです。

近年では地球温暖化などに伴う気温上昇で、梅雨期の集中豪雨の発生頻度が増えているという研究結果もあり、大雨による災害も激甚化する可能性があります。例えば、「西日本豪雨」として知られる平成30年7月豪雨では、「3日間の降水量が50年に一度レベル」の大雨の発生確率は、温暖化を含まない気象条件でシミュレーションした場合と比較すると約3.3倍になっており、総降水量は約6.7%増加していたことが示されました。

現在は、線状降水帯による大雨の可能性を知らせる気象情報や、線状降水帯ができて災害の危険度が急激に高まっていることを伝える「顕著な大雨に関する気象情報」など、上手に使えば危険を回避できる情報がたくさんあります。気象情報に耳を傾けつつ、普段から住まいの地域の水害の危険性をハザードマップで確認したり、家族構成に合った避難のパターンを考えておいたり、一層の備えが必要です。

参考文献・ウェブサイト

『もっとすごすぎる天気の図鑑』
(荒木健太郎/KADOKAWA)>>Amazonでみる
『すごすぎる天気の図鑑 雲の超図鑑』
(荒木健太郎/KADOKAWA)>>Amazonでみる

▼文部科学省・気象庁
『日本の気候変動2020』

▼気象研究所・東京大学大気海洋研究所・国立環境研究所・海洋研究開発機構・(一財)気象業務支援センター
地球温暖化が近年の日本の豪雨に与えた影響を評価しました

佐々木 恭子(ささき きょうこ)

気象予報士、防災士。合同会社『てんコロ.』代表。
大学卒業後、テレビ番組制作会社入社。番組ディレクターを経て、2007年に気象予報士の資格を取得し、民間気象会社で自治体防災向けや道路向けの予報業務などを担当。現在は予報業務に加えて、気象予報士資格取得スクールや気象予報士向けスキルアップ講座などを主催・講師を務める。

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