Episode 4: 津波被災地でのオルタナティブな地域づくり
震災後、小泉地区に計画された防潮堤は県内最大規模の大きさで、高さ14.7m、堤防断面の形状は台形型で土台の底辺幅は約90m、砂浜をほぼ覆い尽くす大きさです。海洋生物の研究者や自然保護団体からは防潮堤の建設によって陸と海との連続性(エコトーン)が絶たれ、砂浜や干潟に生息する生物への影響は避けられないという意見を数多く聞きました。
防潮堤の背後地は災害危険区域に指定されたため住むことができません。住宅を再建するためには高台に移住するしかなく、小泉地区の低平地には道路・鉄道の交通インフラを除くと農地があるだけです。こうした状況から地域住民からも農地を守るために巨大防潮堤が必要なのかと疑問の声が上がりました。
自然と共に生きることが復興
2014年7月に開催された小泉地区の防潮堤計画に関する住民説明会には市内の高校生数名が参加しました。地域住民からの意見は工事を前提とするものがほとんどでしたが、最前列に座った高校生の一人で、「子ども小泉学」にも参加していたBさんが、「他に選択肢があるのになぜ防潮堤を造るのですか」と発言しました。これに対し、発言の最中に「よそ者が何をいう」と野次が飛んだと言います。
その様子を見ていたもう一人の高校生のCさんは、悔しさで一杯の気持ちを抱いて、その場を離れました。Cさんはその後、2015年3月の国連防災世界会議のサイドイベント当日、「子ども小泉学」の代表として復興への思いを次のように語りました。
災害は悪いことだけではありません。現に小泉には新しい干潟が生まれ、そしてこんなにも素晴らしい大人たちに出会わせてくれました。ここに子どもたちが集まり、出来た小さな干潟で新しい発見といのちの営みと、そして震災によって消えていた子どもたちの笑顔が戻りました。私に教えてくれた小さなまちからの大きな発見です。自然と共に生きることが復興、そして人々の幸せにつながると思います。
令和6年能登半島地震
本稿を執筆している最中に、石川県能登半島を震源とする地震(M7.6)が発生しました。活断層型地震では1995年の阪神淡路大震災を上回る地震規模で、津波、火災、土砂崩れを伴う複合災害となりました。
さらに地震と同時に発生した地震性隆起(注1)によって沿岸域の物理的環境は大きく変貌しています。日本海沖合の活断層が連動することで発生する地震では、津波の第一波の到達時間が早く、避難が非常に難しいと指摘されています(注2) 。それゆえ、防災教育では次世代への災害伝承がきわめて重要です。
震災後時間が経過した後に災害急性期のストレスが原因で心身の不調を訴える人は少なくありません。とりわけ子どもや高齢者、障がい者の心のケアに気を配るべきです。「誰一人取り残さない」(Leave no one behind)は災害弱者にも当てはまります。
次回は、災害復興から考えるSDGs(持続可能な開発目標)について考えたいと思います。
注釈
(注1)東京大学地震研究所「【研究速報】令和6年能登半島地震」
(注2)東北大学災害科学国際研究所「令和6年能登半島地震に関する速報会」(2024年1月9日)における今村文彦教授の報告より。