写真:CBST運営委員会の事務所でエクセルの使い方をギャルツェン(右)に指導するRSPNのジグミ(左)
【実施期間】2014年9月7日(日)〜20日(土)
【開催地】ブータン ポブジカ村
【主催】独立行政法人国際協力機構(JEEF受託)
【協働】王立自然保護協会(RSPN)
文:田儀耕司(JEEF職員)
ポブジカでエコツーリズム開発事業を始めたのは2011年5月のこと。当初ポブジカを訪れた際すぐに、案内してくれたある旅行会社のガイドに、「2日間も滞在するには何もないところだよ」と言われたものでした。3年間の事業実施の間ブータンを訪れた回数は合計12回にもなりましたが、その最後の渡航として、事業の終了確認のためブータンを訪問しました。今回は事業成果の振り返りを報告したいと思います。
最終渡航にあたり、ポブジカのエコツーリズム運営委員会のギャルツェンさんが、1年間のエコツーリズム運営の結果をデータとしてまとめてくれていました。その結果は次の通りでした。
- 旅行客数
- 320名
- うち、海外からの旅行客260名 国内からの旅行客60名
- 総収入
- 約906,000円(1円 = 1.7ニュルトラムとして計算)
- 収入内訳
- ローカルガイド&ホームステイ:約96%
- 伝統舞踊:約2%
- 石風呂:約1%
- 海外旅行客の内訳
- 1位 日本人(70%)
- 2位 スイス人(20%)
- その他(10%)
- 宿泊数
- 海外旅行客:2泊3日が110名 1泊2日が150名
- 国内旅行客:2泊3日が30名 1泊2日が30名
年間320名もの海外観光旅行者
旅行会社へのプロモーションを本格的に行ったのが今年2月でしたので、多くの旅行会社がまだツアー商品を売り出していない状況の中、一年で320名という数字は大健闘だと言えます。一方、旅行者の内訳がかなり偏っていることは気がかりです。現段階で日本人70%、スイス人20%ですが、明らかに特定の旅行会社からのお客さんが多いことを示しています。いわゆる、「お得意さん」があることは悪いことではないのですが、その旅行会社からの収入が途絶えた時にたちまち経営危機に陥ることから、より多くの旅行会社に収入源を分散することが今後の課題と言えます。
次に、1泊2日の滞在客が多いことが気にかかりました。昨年、風の旅行社の原さんからお知恵を拝借し、ポブジカの滞在パッケージを作った際は、2泊3日を基本にしましたが、内訳は1泊2日が約6割、2泊3日が約4割でした。これは、滞在期間の短い日本人旅行者が海外旅行客の7割を占めていることと無関係ではないと思われます。収入を上げる上では、1泊2日よりも2泊3日の旅行客を増やすようなプロモーションが必要になりそうです。
さらに大きな課題として残ったのは、ポブジカの2つの集落の訪問客数の違いです。海外からの旅行客の260名のうち、230名が交通のアクセスの良いガンテ側に滞在しており、残る30名が谷の南部のポブジ地区に滞在したという結果が出ました。ガンテ地区から未舗装路を車で30分程度走らなければならないポブジ地区側にハンデがあるのは最初から明らかでしたが、ここまで差が出るとは思いませんでした。エコツーリズム運営委員会では極力公平に分配するようにしていたようですので、あとは旅行会社の要求による部分が大きかったのでしょう。今後、政府観光局や旅行業協会から各旅行会社へ、ポブジ地区側の更なるプロモーションを行っていくよう、最後のステアリング・コミティ会議でも取り上げられました。
運営陣の実力アップ
運営体制の方はかなりしっかりしてきました。運営委員会の代表ギャルツェンはポブジ地区、ガンテ地区双方の集落の住民たちに厚く信頼されており、ティンプーでの公の会議でも、しっかり話ができるほど自信がついてきました。ホームステイ先の受入体制は今回2軒滞在してみましたが、どちらも自然な対応ができるようになっていました。ローカルガイドによる案内もかなり定着していました。案内をしてくれたペマは、ポブジカでしか聞けないようなオグロヅルに対する、土地の人の意識についての話をしてくれるだけでなく、トレイル上を案内しながらゴミを拾っており、その姿勢は旅行客に好感を持ってもらえるものでした。
ガイドの案内が板についてきたペマ(左)
9月15日の夕刻からRSPN主催で、事業に関わった人々を招いた事業終了の夕食会が行われました。飲兵衛のブータンの人たちらしく、皆へべれけになるまで飲んでいましたが、満足そうな顔のポブジカの人たちの様子が印象的でした。
ポブジカでのエコツーリズム開発事業は10月末で終了しましたが、来年からもう少しスケールアップし、ブータン西部のハでエコツーリズム開発事業を行うことになりました。そちらの事業については、始まり次第、改めて報告することにします。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。