【事業名】JICA草の根技術協力事業 ブータン王国ハ県における地域に根ざした持続可能な観光開発と人材育成プロジェクト
【実施期間】2015年1月~2017年1月
【実施地】ブータン王国ハ県
【主催】独立行政法人国際協力機構(JEEF受託)
【協働】王立自然保護協会(RSPN)
地域観光開発を進める際、必ずといって良いほど話に挙がるのが、「その地域特有の祭やイベント」ではないでしょうか。今回は、ブータンでJEEFが関わるハ県とポプジカ谷のお祭事情をご紹介したいと思います。
ブータンの祭と観光
ブータンでは、現在でもほとんどの祭は、あくまで「地域の宗教儀式」という位置づけで、観光客はそれを傍からそっと見学する、という形態が推奨されています。「ツェチュ」と呼ばれる祭は、ブータンに仏教を広めた高僧を讃える儀式で、ブータンに20ある各県にて毎年1回開催され、地域の人々は身を清めるために参加します。祭の日程は毎年僧侶らが占星術によって決めますが、最も華やかな首都ティンプーのツェチュは9月頃、国際空港のある観光地パロのツェチュは3月頃に行われるため、現在でもブータンの観光シーズンはこの2つの季節に偏っています。
4年目を迎えたハ・サマーフェスティバル
それに対してブータン政府が最近始めたのが、観光客誘致・地域活性化を目的とした、イベント的要素の強い祭です。松茸フェスティバルやマウンテンバイクレース、そしてJEEFとRSPN(※1)がCBST(※2) 事業を進めるハ県でも、7月の観光閑散期に『ハ・サマーフェスティバル』が企画され、今年で4年目となりました。
※1 RSPN
王立自然保護協会
※2 CBST
「Community Based sustainable Tourism」の略称。日本語訳は、「地域に根ざした持続可能な観光開発」。
祭では、地元名産のヒュンテ(そば粉の皮で包んだ餃子)、アラ(麦やトウモロコシの蒸留酒)、ヤクや牛のチーズなどがふるまわれ、ハ県固有の高山植物に関する展示、地元の守護神を讃える歌やダンス、伝統的なゲーム(弓やダーツ)のデモンストレーション、といった催し物が行われます。
確かに、どれもひとつひとつはハ特有なのですが、祭全体をまとめるインパクトの強いテーマには欠け、参加していた観光客の方々からも、「のどかで楽しいお祭だが、ハ・サマーフェスティバルに合わせてブータンに行くべき! とお勧めするほどの内容ではない」といったご意見をいただきました。また現在は、ハ県政府が祭を企画・運営し、地域住民には「政府が費用を支払って」「出店してもらう」という、完全なトップダウン形式。観光客誘致・地域活性化の両側面で、まだまだ多くの課題が残っています。
ポプジカ谷のオグロヅル・フェスティバル
ここでご紹介したいのが、以前にJEEFとRSPNがCBST事業を実施したポプジカ谷で、毎年11月に開催されるオグロヅル・フェスティバル。1997年、希少なオグロヅル保護の呼びかけと、地域活性化を目的としてスタートしました。当初はRSPNが主導していましたが、15年以上の年月をかけた末、現在では企画から運営まで、すべてのプロセスを地域住民が主体的にとり行うようになりました。同時に祭を通して彼らの意識が高まり、「ツルの谷、ポプジカ」に対する誇りが持てるようになりました。
持続可能性のため、近年500ニュルタム(約1,000円)の入場料制も採り入れましたが、参加者は祭の内容に満足することに加え、余剰金は地域活性化とオグロヅルの保護活動に活用されることから、皆不満無く支払いに応じています。
オグロヅル・フェスティバルは、伝統的な宗教儀式とは異なる形態での地域主体の催しであることから、ブータンにおける新スタイルの祭の先駆けと言えるでしょう。
目指すは地域主体のお祭運営
地域の祭は地域の顔。ハ県とポプジカ谷の祭を比較することで、それぞれのコミュニティの状態も浮き彫りになりました。これからさらにハ県におけるCBST事業を進めていく中で、地域の人々が主体となり、行政のリソースをうまく活用しながら観光開発を進めていけるような体制を築くことを目指していきたいと思います。
文責:松尾茜(JEEF職員)
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