機関誌「地球のこども」 Child of the earth

皆さんの買い物と地球温暖化・気候変動 2018.02.19

写真:南の島の何気ない午後の写真に見えるが、海岸浸食によりヤシの根が露出し塩枯れしつつある悲しい風景。このような風景は今では島中どこでも見ることができる。

文:ケンタロ オノ(一般社団法人日本キリバス協会)

恵みの海 今この海が…

キリバスは人口11万人の中央太平洋にある国で、赤道付近東西5000キロに広がる領海に、陸地総面積が佐渡島と同じくらいの33の島々が散らばっています。海洋面積は350万平方キロと、インドの陸地面積よりも大きいのです。これらの島々は、1島を除きすべて環礁で、海抜は平均で約2メートル、幅に至っては首都のタラワでも平均で350メートル、右を見ても左を見ても海です。キリバスには山や川がありません。その代わりに、海が私たちキリバス人に恵みをもたらしてくれたのですが、今は大きな危機を投げかけています。

今キリバスで起きていること

どこまでも豊かで青い海、青い空、白い砂浜、穏やかで明るく優しい人たち。私たちの美しいふるさとキリバスは、地球温暖化・気候変動を引き起こす温室効果ガス排出量が世界で2番目に低いにもかかわらず、その影響の最前線に立たされています。そして、最悪のシナリオでは、2050年には海面上昇により国の8割が水没する可能性があると言われています。

川の無いキリバスの水資源は、雨水しかありません。ところが今まで経験したことがないような高潮が海岸を浸食し、土地が減り、地下貯水量を減らしています。また、高潮により陸地に浸透する海水が地下水源を悪化させます。加えて、海水温の上昇による台風の巨大化や、干ばつと多雨を年単位で繰り返すようになりました。恐らく私たちキリバス人は世界で一番しょっぱい水を飲んでいるでしょう。

 

アバイアン島テブギナコ村。海面上昇により廃村を強いられた。塩枯れしたヤシの木の根元には海水で育つマングローブが生えている。

日常の中で私たちができること

地球温暖化・気候変動は私たち人類が引き起こした問題です。人類は、20世紀の凄惨な世界規模の戦争が、もう二度と起こらないよう立ち上がりました。21世紀は地球温暖化の解決に向けて、同様に立ち上がらなくてはならないのです。そのためには一人一人の理解と行動が必要なのです。

どのような理解と行動が必要なのでしょうか? 例えば子どもたちも大好きな鶏の唐揚げ。比較的お買い得な鶏肉は、日本の真裏のブラジルなどからの輸入品です。もちろん鶏肉は歩いては来ません。大量の重油を燃料に、地球温暖化・気候変動を促進する大量の二酸化炭素を吐き出す超大型貨物船で日本に運ばれます。

日本は資源の無い国とおっしゃる方がいますが、私たちキリバス人から見ると、日本は石油資源がないだけで、なんと様々な資源に恵まれた国なのかと、羨ましい限りです。そして、地産地消という素晴らしい考え方があり、それを実行できる国です。大量に化石燃料を消費し、はるばる地球の裏側から輸入する鶏肉の方が国産の鶏肉より安いことは、本来は不思議なことです。このような消費行動はこの先も持続可能なのでしょうか?

日本も他人事ではないのです

日本にも地球温暖化・気候変動による影響が着実に迫ってきているのです。季節外れの豪雨や巨大台風、真夏日の増加などです。『数十年に一度』の大雨である特別警報を、ここ数年、年に何回聞くでしょうか? 雪が少なくスキー場をオープンできないと伝えるニュース、ここ数年冬に何回聞くでしょうか? 日本のサンゴや海の生態系の北限が年々北上しているといわれています。

日々のあたりまえの買い物や消費を一歩、いや半歩でも下がって、このままで良いのか、冷静に真剣に考えなければならない時が来ています。そして行動に移さなければならない時が来ています。

地球温暖化・気候変動によって私たちキリバス人がキリバスに住めなくなってしまう事態。つまり、キリバスという地球温暖化・気候変動の影響の最前線が破られてしまったら、その次に、そしてさらに大きな影響を受けるのは、キリバスよりも大きな島国である日本なのです。つまり、地球温暖化・気候変動からキリバスを守ることは日本を守ること。皆さんの買い物や消費に対する考え方をちょっと変えることで、守ることができるのです。この問題はもう、遠い南の島の遠い話や他人事では、決してないのです。

※この記事はキリバス政府の公式見解ではなく、筆者の個人的な見解です。

ケンタロ オノ

1977年宮城県仙台市生まれ。1993年にキリバス共和国に単身で高校留学し、高校卒業後も引き続き同国に在住。2000年にキリバス共和国に帰化。開発コンサルティング会社を経営しながら、キリバス外務省顧問、アノテ・トン大統領私設政策補佐などを歴任した。2011年から日本在住。2017年には一般社団法人日本キリバス協会を設立し代表理事に就任。名誉領事としてキリバス・日本両国間関係の活動のみではなく、キリバスにおける気候変動・地球温暖化が引き起こす人的側面の問題に関する講演活動を日本や世界各国で行っている。

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