文:垂水 恵美子(JEEF職員)
【実施日】2013年8月31日(土)~9月3日(火)
【開催地】Aコース:オークヴィレッジ/森林たくみ塾(岐阜県高山市清見町)
Bコース:キープ・フォレスターズ・スクール(山梨県北杜市高根町清里)
【共催】JEEF
【協働】Aコース:オークヴィレッジ/森林たくみ塾 Bコース:(公財)キープ協会
【協賛】NEC
NEC森の人づくり講座は、環境に関心のある全国の学生が参加し、環境教育について学ぶ学生専用の環境教育講座です。作文による選考を通過した20名の学生たちはAコースとBコース、2つのコースに分かれ、3泊4日の泊まり込みのワークショップを通じて、間伐、木工、環境教育プログラムづくりなど、森づくりや環境教育についてみっちり学びます。
Aコース:岐阜県高山市 オークヴィレッジ/森林たくみ塾
自分の力で答えを導き出す
『しっているから、しているへ』をテーマに、森林の生態系や、森を使いながら人を育てる術を先人の知恵から学びつつ、これからの森と人との関わり方を考えていくことを目的としています。まずは森の手入れ。しかし教えてもらえるのは道具の使い方だけ。森を手入れする目的、やり方、効率のいい方法、すべて自分たちで考えて作業します。学生からは「探りながら作業をすることで、疑問から自分の力で答えを導き出していくプロセスを考えられるようになった。」との声がありました。
きれいになった森は、来年の夏に参加する本講座の後輩たちが同じように作業する時の見本になります。森の手入れの後は、自分たちで切り倒した木を丸太に切り、細く割ってカンナで削り、箸をつくりました。森の手入れから間伐、製材、加工、利用という木の一連のサイクルを学んだ学生たちは、木がとても身近な存在であることに気づき、モノづくりの奥深さを実感しました。
Bコース:山梨県北杜市 キープ・フォレスターズ・スクール
伝えることの難しさ
「インタープリテーション~人と人・人と自然のつなぎ方」をテーマに、自然と人、人と人とをつなぐ“インタープリテーション”の考え方や手法を学びながら、より良いコミュニケーションのあり方を考えます。まずはキープ協会の森に棲んでいる天然記念物・ヤマネをはじめとした樹上性動物の通り道「アニマルパスウェイ」の利用状況の調査に必要な地図づくり。保護活動に関わる作業を通して野生動物との関わり方について考えました。環境教育プログラムをいくつか体験した後は、グループごとにオリジナルの環境教育プログラムを作成し、互いに体験・評価し合いました。学生たちは、相手に自分の想いを伝えることの難しさ、大切さに気づきました。
また講座の中では両コースそれぞれ、本講座に協賛いただいているNECからCSR・社会貢献室の方よりNECの社会貢献活動についてお話いただきました。企業の方と会う機会の少ない学生にとって、NECの社員から直接お話を聞けることはとても貴重な機会です。「農作物にイチゴを選んだのはなぜ?」「社会貢献は社会に対してするものなのに、社内での評価を重要視するのはなぜ?」学生たちは活発に質問していました。
ITの活用により広がる可能性
さらに初の試みとして、「IT×環境教育」のワークショップの時間を設けました。「IT×○○×環境。『○○』に何かを当てはめて、IT(情報技術)と環境をつなぐとしたら、何が浮かびますか?」映像、演劇、地図、情報、天気、交通…「では、それらを使って具体的に何ができるでしょう?」グループごとに活発な意見交換がなされ、ヤマネのゲームを作るなど様々なアイディアが発表されました。環境教育という言葉は難しくても、身近に親しまれているITを使ったものを活用することで、環境教育の可能性が大きく広がります。
さらに本講座の特徴として、ITを利用したスカイプ講座の時間があります。3日目の夜にはくりこま高原自然学校の塚原俊也さんと、Aコース、Bコースの三者をネットでつなぎ、塚原さんによる自然学校の経験とネットワークを通じた震災復興についてのお話の時間です。くりこま高原自然学校は2008年に岩手・宮城内陸地震、2011年に東日本大震災の二度にわたり災害に見舞われ、自然学校の経験をいかして地域の支援も行っています。東日本大震災時、RQ市民災害救援センターの石巻河北ボランティアセンターでの活動についてのお話の他、安全・安心な範囲を少し超えて、自発的に行動することの大切さについてもお話くださり、学生たちの心に深く刻まれたようでした。
学生たちは「森の見え方が変わった」「ほかの分野を学んでいる人たちと出会ったことは衝撃的な体験だった」「何に対しても先を見据え、思いや願い(=ねらい・目的)を持って行動することが大切だと分かった」と、様々な想いと気づきを胸に3泊4日の講座を終了しました。
「NEC森の人づくり講座」はNECより協賛をいただき、今年で19年を迎えます。修了生は600名を越え、大学卒業後は教育関係、公務員、NPO・NGO団体、自然学校、一般企業等、さまざまな立場で活躍中。講座に参加した年を越えて積極的に集い、情報交換を行っています。彼らの今後の活躍にご期待ください。
文責:垂水 恵美子(JEEF職員)
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。