機関誌「地球のこども」 Child of the earth

考えるっておもしろいかも!?第6回 かもアメリカに渡る 2014.10.22

GEMSが生まれたカリフォルニアの空気を感じたい! ジャパンGEMSセンター研究員になってからおよそ一年、初めて憧れの地バークレー(※1)へと向かいました。現地で待ち受けていたのは驚きと学びの日々。今回はアメリカで感じたことをふり返りながら、GEMSの新しい流れについてレポートします。

※1 GEMS(Great Explorations in Math and Science)
カリフォルニア大学バークレー校の付属機関Lawrence Hall of Scienceで開発された科学と数学の体験学習プログラム。

次世代の科学スタンダード

今回の渡米の目的は、LHSで開発されているGEMSの後継プログラムSeeds of Science / Roots of Reading(以下Seeds / Roots)のワークショップに参加することでした。これまでの研究結果から、直接体験と科学的な文章・語彙をつなげて学ぶ方が、子どもたちが科学への理解を深められるということがわかってきたそうです。そこで、従来のGEMSに大きく2つのポイントが追加する形で後継プログラムSeeds / Rootsが開発されました(※2)。

    • 科学について学びつつ、言語運用能力(literacy)を育てることも重視している
    • 学校の授業内で展開しやすいように、カリキュラムや教材、評価基準がすべてパッケージ化されている

従来のGEMSでは、指導者に委ねられていた部分が固定化され、時間配分や教材の指定、子どもたちの学習評価についてもガイドブックに細かく記載されるようになりました。これまでに比べて自由度は低くなってしまいましたが、誰がどのクラスでやっても同様の効果が得られるように工夫されています。

※2 Seeds / Rootsの詳細
Lawrence Hall of Scienceウェブサイト

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「体験型だけ」のその先へ

Seeds / Rootsのプログラムは、体験と並行して、話し合う、文献を読む、結果を記述するなどの言語を使った活動が多く含まれています。これは、「Do-it, Talk-it, Read-it,  Write-it」アプローチという新たな手法で、本物の科学者が行うように体験と言葉をつなげていく探究の方法です。特に興味深かったのが、すべてのプログラムが付属の冊子を読むことから始まることです。子どもたちは文脈がつながっている方が物事の理解がしやすいと言われています。冊子を使うことで、ストーリーに乗せて無理なく語彙を増やしたり、文章から必要な情報を読み取る力を育てることができます。

ワークショップには、私たちの他にもアメリカやカナダ、アイルランドの先生、デンマークの研究者や韓国GEMSセンターのスタッフなど世界各地から参加者が集まっていたので、ワークショップは全編英語で行われました。実際にプログラムを体験してみると、英語教育を兼ねたプログラムだけあって、英語が得意でない僕でもだいたいの内容を理解できるようなステップアップ式の構成になっていました。そう感じたポイントとしては、従来のGEMSに比べて読むパートと話し合うパートの割合が大きくなったこと、個人作業の割合が減ったことが挙げられます。例えば、冊子を読むときも2人一組で交互に1ページずつ読むパートナー・リーディングを行いますし、予想を立てたり観察結果を記録したりするときもグループで話し合いながら行います。常に誰かとコミュニケーションすることで、「今の単語どういう意味?」「こういう色って何て表現するの?」というようにお互いの語彙を補足しあうことができます。そして、語彙が増え、話し合いが活発になるほどに、自分の考えが整理されていく実感が得られたのは大きな収穫でした。

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ワークショップの参加者参加者たちと

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科学館の強みを活かした学びのデザイン

GEMSやSeeds / Rootsなどの科学教育プログラムを研究開発しているLawrence Hall of Science(以下LHS)は、研究機関であると同時に科学館としての機能も充実しています。施設はあまり大きくないのですが、「人々の学びのあり方(how people learn)」の研究から生まれた、物理学、地質学、生物学、数学など様々な領域の展示があります。

LHSでは、学生スタッフが運営に大きく貢献しているのが印象的でした。館内ツアーやワークショップの指導員、売店やカフェテリアのスタッフまで、たくさんの学生が館内で働いていました。ツアーやワークショップを学生に任せることで、館のコンテンツを充実させつつ、学生の科学コミュニケーションのトレーニングも行うことができます。来館した子どもたちも、年の近いお兄さん・お姉さんがいろいろ教えてくれるのはとても嬉しそうでした。

生き物に触れることができる展示も特徴的です。リクガメやヘビ、チンチラを直接観察した後、それぞれの身体のつくりや、骨格の違いについて学んでいきます。そして、隣のスペースに展示してある恐竜の化石と骨格を比較したり、さらにその化石が出てきたカリフォルニアの地層についても学べるようになっています。生き物に触れることから始めて地層の学習まで、複数の学問領域をまたいで学びがつながっていくようになっています。科学館全体が一つのラーニング・サイクルを描くように造られていることで、子どもたちの思考がスムーズに流れ、より科学的概念への理解が深まるようになっていました。

科学×芸術×人間で広がる可能性

サンフランシスコ湾を挟んだバークレーの対岸にエクスプロラトリアム(Exploratorium)というおもしろい科学博物館があります。ここは「科学、芸術、そして人間の知覚のミュージアム(the museum of science, art and human perception)」をコンセプトに、実際に観客が自分の身体を使って体験できる展示を中心に構成されています。

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この館の展示は、造りはどれもシンプルなのですが、その一つ一つが「おぉ~!」と感嘆するほどのアイディアと芸術性に富んでいます。例えば、大きな窓の近くに赤・黄・青の色がついたガラスパネルが無造作に置いてあるだけの展示がありました。窓には「色を混ぜてみよう」とだけ書かれた紙が張ってあります。子どもたちは自分でガラスパネルを動かして、日光を透過したときの色の変化を見たり、パネルを重ねて色を混ぜたりして楽しむのです。電灯の均一な光を使うのではなく、あえて自然光を使うことで、訪れた日の天気や時間帯によって毎回違う楽しみ方ができる素敵な展示になっています。

エクスプロラトリアムの大きな魅力は、展示に子どもが理解できないような難しい背景知識を書かないことです。その代わり、各展示にはスタッフの手書きのメモがベタベタ貼られています。展示の新しい楽しみ方を発見したり、その展示に関係する科学の新説が出たりすると、スタッフがそれをポストイットに書いて展示の横に貼っていくのです。これがまたテンションが高くておもしろいんです(笑)それを見るためだけでも通う価値ありです。

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LHSに設置されているベンチ
圧力によって隆起した地層をモデル化している

まとめ

LHSやエクスプロラトリアムに共通するのは、子どもたちの興味が尽きない、学びのサイクルが途切れない工夫に溢れているところです。自分で触る、操作する展示は、力の加減や動かすタイミングを変えて子どもが何度も試行錯誤して楽しむことができます。また、スタッフを活用することで、展示がもっている力を一層高め、子どもたちの学びを促していることも注目すべき点です。

GEMSやSeeds / Rootsのアプローチにも同様の部分があります。実際に子どもがやってみること、そこに指導者が効果的にかかわることによって子どもたちの学びを深めます。この学び方のコンセプトは決して新しいものではありません。しかし、それを実現するためのプログラムや展示を開発することについて、アメリカは研究が進んでいると感じました。今回学んだことを日本でどのように還元していくのか、ジャパンGEMSセンター研究員としての大きなチャレンジが始まります。

GEMS(ジェムズ)は、カリフォルニア大学で開発された子ども対象の科学と数学の体験学習プログラムです。 大人が知識を教えるのではなく、子どもたち自身が実験を企画し、話し合いながら結論を導き出すようにアクティビティが構成されています。

ジャパンGEMSセンター

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鴨川 光(かもがわ ひかる)

1987年茨城県生まれ。ジャパンGEMSセンター研究員。 早稲田大学大学院教育学研究科修了後、2013年6月より現職。子どもの思考力や社会性の発達について研究している。ワークショップやボランティアを通して子どもたちと一緒に成長中。

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