絵/文:二宮 孝 (株)日能研
「子どもは遊びの中で総合的に育つ」という言葉があります。
走る・跳ぶ・バランスを取って渡る・ぶら下がるなど、日常の身体運動の中で心拍数や身体能力をあげたり、限界を知ったりと様々なことを身につけていきます。これらを基本運動と呼び、古来知育・徳育同様 発育発達を相乗的に促していくことが、地球上各地で行われてきました。世界中の子どもたちがやっているだろう鬼ごっこは、心拍数を瞬間的にしかも最大限上げるうえで多大に貢献しているゲームです。運動神経やスキルに恵まれた子が勝つことだけではないところに、遊びの意義があります。あるいはルールを変化させることで、得手・不得手を調整することも出来ます。鬼ごっこで「ケンケンにする」や「歩く」あるいは「スローモーションで鬼ごっこする」は、ハンディキャップを埋めてなおかつ平等に遊べる工夫の代表でもあります。子どもたちは遊びの中でルールを変化させる力を持っています。人数や持っている用具その他のシチュエーションに合わせて、アレンジする力は「想像力」と「創造力」を養う上でも最適です。
アイスブレイクのポイント
初対面の「様子伺い」や「ぎこちなさ」を自己防衛の壁(Self Diffence Barrier)と呼び、この壁の高さを下げるために手軽なゲームや手遊びを行う…がアイスブレイカーと呼ばれるゲームです。基本的にはメンバー間に意地悪やディスカウント(※1)がなく、安心して楽しい雰囲気があれば、自然にこの壁の高さは下がっていきます。初期の段階では次のふたつのファクターが大いに貢献します。
※1:ディスカウント
過小評価したり、小馬鹿にしたり、オミソ扱いしたりすること。ディスるなど
(1)他者と一緒に何かをして笑う
(2)普通ならちょっと恥ずかしいような動作を自分から行う(ディインヒビタイザーといい、精神的な制御を外すのに効果的)
これらは実に有効だと考えられます。ですから、この要素をちょうどいいレベルで織り交ぜられればバッチリOKという訳です。また、失敗した自分を笑うということも、競争原理から離れるのに有効です。
どこかの修学旅行が取り入れているような「干潟で泥んこになる…」は、「もうどうでもいいや…いっそハチャメチャになろう」という気持ちと自然な笑いを作ってくれます。そうなっている時に「それではワニになったつもりで動き回ってみましょう」と提案すれば結構な確率で楽しみながら受け入れて貰えるだろうと思います。でもたとえ同じメンバーでも、ドレスを着てパーティ会場にいる時だったらどうでしょう。大部分は拒絶するばかりでなく、提案者もスポイルされるに違いありません。時と場と相手と自分…を適切に読んで、見定めて、環境や条件を確かめて行うことが大切です。こういうと、針の穴に糸を通すような感じがしますが、通常はその穴は糸の太さに対して割と大きいものです。これらは環境教育を推進させるうえでも重要なファクターです。
子どもの遊びは元来自然発生的なもので、ルールは動けるためのものと安全に配慮するものがあれば始められます。やっているうちに高度に進化したり新たな危険が見えてきた時は、その段階でルールを加えていくのが普通です。大体のエリアが決まっていれば消石灰でラインを描いて、踏んだとかはみ出したとか言う必要のないものが自然発生的な遊びの初歩の姿です。あるいは顔にボールが当たると痛すぎたり、眼鏡が壊れたりということが起きるから、顔は狙っちゃいけないや首から上は当たってもセーフみたいなルールがあと付けされます。
「競争」をなくして生まれるもの
さて、基本的に勝ち負けではないゲームについて考えていきたいと思います。2チームの対戦はもとより、どこのグループが早くできるかなども「勝ち負け」「競争」「上下」に属するものと考えます。例えば山歩き(登山)で草花や木の根っこ、虫や景色を見ながらグループごとにルートを選びながら行きましょう…と言っても、頂上界隈では「やった―オレ達イチバン!」と登ってきて声をあげます。普段から競争原理のレール上にいる様子が感じ取れます。すべての競争を否定するわけではありません、そのファクターを極力無くしたとしても日ごろから充分競争を自ら楽しんだり、大人から与えられたりする環境にありますから、違う感覚にも触れようということがメインです。場合によっては「競争」がないからこそ「協力」が生まれるといった副産物も目につくことでしょう。
少人数で遊ぶ場合、誰かの陰に隠れられないことと、みんなが関わり合うことで、密度の濃いアイスブレイクタイムを持つことができます。例として「たこやきやけた」「モデル・粘土・芸術家」という遊びをあげておきます。(参考図書 「みんなのPA系ゲーム243」(杏林書院)諸澄敏之編著)
やってみて!こんなあそび
たこやきやけた
少人数で行うしりとりです。集まった子どもに合わせてルールは可変的にお願いします。基本のルールは 次のような感じです。
4〜5人で車座になり、膝の上に掌を広げて(手はお膝…的に)乗せます。誰かの左手から順番に時計回りで進んでいきます。最初の人が「リンゴ」と言えば、その人の左手が「リ」左隣の人の右手が「ン」おなじ人の左手が「ゴ」になります。終わりの「ゴ」になった左手をグーにします。この手から「ゴリラ」で、また三つ目の手がグーに…。「ラッパ」…「パンツ」…と、続いてすべての手がグーになれば、「たこやき」が焼けた状態です。もし途中でグーの手に当たれば、その手はパーに戻します。
相手に渡す文字を、始まりと同じにする、いじわるなしりとりとは違い、最後はみんなの協力ゲームになります。やってみてごらんなさいませ。
やってみて!こんなあそび
モデル・粘土・芸術家
全員無口で行います、最後に芸術家が「完成」と言えば終了です。終わったら、目を開けて確かめあいます。それぞれ何を思っていたのかを口々に言ってみると思い違いなども分かって面白いでしょう。例えばモデルが力士の土俵入りのワンシーンを思い受かべ、芸術家はロボットだと思い込み、粘土は「コマネチ」ポーズだと思っていたなど、笑いで心の壁が下がることを体験できるかもしれません。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。