現地活動がスタート 2015.06.10

【事業名】JICA草の根技術協力事業 ブータン王国ハ県における地域に根ざした持続可能な観光開発と人材育成プロジェクト
【実施期間】2015年1月~2017年1月
【実施地】ブータン王国ハ県
【主催】独立行政法人国際協力機構(JEEF受託)
【協働】王立自然保護協会(RSPN)

昨年末に事業が終了した、ブータン王国ポプジカにおける「地域に根ざした持続可能な観光開発」に引き続き、今年から、西部ブータンのハ県でも、ポプジカ同様のスキームで事業が実施されることになりました。本稿では、ブータンでこのような事業を行うことの意義、そして本新規事業の概要をご紹介いたします。

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「地域に根ざした持続可能な観光開発」とは?

皆さんは、旅行中、とりわけ開発途上国を訪れた際に、こんな風景を目にした事はないでしょうか。観光開発ブームの波に乗って乱立するリゾートホテル群と、その目と鼻の先に広がるスラム街、そして観光客に群がる物乞いの子どもたち。リゾートホテルで働くのは、外国人や国内の他の地域出身の人々で、昔からその土地に住んでいる人々は、リゾート建設のために農地を奪われ、観光開発による恩恵を授かるどころか、逆に貧しい生活を強いられることになる―こういったケースは、実際に途上国で多く見られます。

それに対する観光開発のあり方として、「地域に根ざした持続可能な観光開発(CBST ※1)」が提唱されました。この概念は、2000年代後半頃から国際機関を中心に広く通用し始めています。CBSTは、観光地の自然・文化資源保護と、地域コミュニティが観光産業へ参入することにより利益を継続的に享受する仕組みを作ることを目的としています。CBSTの普及により、美しい自然・文化資源を保有する地域の乱開発を防ぐと共に、コミュニティがその資源を活かしながら、次の世代へと受け継いでいくことができるのです。

ブータンのユニークな観光政策

ブータンの観光政策を一言で表すと、「ハイバリュー、ローインパクト」。すなわち、「お客様には質の高い旅行を提供し、伝統文化や環境への負の影響は最小限に抑える」と謳っています。これは、観光産業の発展を急ぎすぎて、自然や伝統文化、地域コミュニティの崩壊、貧富の格差の拡大などの問題が生じてしまった近隣のアジア諸国の失策から学んだものです。具体的には、ひとり1泊あたりの「公定料金」が設定され、三ツ星ホテル・農家・キャンプの宿泊、英語ライセンスガイド、車、食事、そして内国税がすべてパッケージ化されています。

ツーリストは必ずブータンの旅行会社を通してこのパッケージを購入する必要があります。 この仕組みにより、ツーリストの受け入れによって政府が必ず収入を得られることに加え、旅行会社やガイド、ドライバーといった雇用が必然的に創出されるのです。ちなみにこの内国税は、ブータン全土における医療や教育の普及、貧困削減など様々な分野の公共事業に充てられています。

CBSTの概念を振り返ってみると、ブータンの国策とぴったり合致していると言えます。実際、ブータン政府としても前例のポプジカにおけるCBST事業の成果を高く評価しており、また国全体へのCBST普及への期待も高まっています。

2012年から観光客誘致のために毎年開催されている、「ハ・サマーフェスティバル」

2012年から観光客誘致のために毎年開催されている、「ハ・サマーフェスティバル」

ハでの新規事業概要

今回の事業は、前例のポプジカ同様、ブータン現地NGOの王立自然保護協会(RSPN)との協働体制を取っており、具体的なハでの事業項目は、次の通りになります。

  1. 農村体験の開発
  2. ローカルガイドの育成
  3. 地元の特産物を活用したお土産の開発
  4. 地域における観光素材の開発
  5. 地元の人々と観光客の交流の場となるコミュニティーセンター(日本でいう「道の駅」のような施設)の開発

またハにおいてCBSTの仕組みを構築するのみならず、開発が遅れている東部を中心に、ブータン全土にCBSTの概念を広めることも、今回の大きな目標のひとつとなっています。東部から各県の担当者を招いてポプジカやハの事例を紹介し、最終的には自身でCBSTの計画書を作成してもらうのが狙いです。また、ポプジカとハにおいて、CBST開発により環境負荷が不用意に高まっていないかをチェックする「キャリング・キャパシティ調査」を実施することも、今回新たな試みとして取り入れています。

事業スタート前の下準備

始まったばかりの当事業、まずは、関係各機関からの代表者を集めたステアリング・コミッティの結成と、ベースライン調査の実施を行います。ブータンの国が一体となってCBSTを盛り上げていく基盤づくりをすると同時に、ハ地域コミュニティの社会経済調査を行うことで、地域住民の抱える問題やニーズ、モチベーションを細かく把握します。また、どのような観光素材が眠っているかというポテンシャルを探る、いわゆる「宝探し」も行っていきます。これらのステップは、プロジェクト終盤で事業前後の比較をし、成果を確認するためのベースを築く、とても大切な下準備と言えます。

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文責:松尾茜(JEEF職員)

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