文:青木 将幸(青木将幸ファシリテーター事務所)
ファシリテーターとして食べて行けるの?
みなさん、こんにちは。ミーティング・ファシリテーターの青木将幸と申します。私の仕事は、会議や話し合い、ミーティング、ワークショップなどの進行役をすることです。毎日のようにいろんな地域や組織にでかけていって、家族会議から国際会議まで色々なジャンルの話し合いのお手伝いをしています。いわゆるプロのファシリテーター。
2003年に青木将幸ファシリテーター事務所を設立して以来、年間100回ほどのペースでファシリテーションを実施しています。現在、兵庫県の淡路島に在住していますが、東京大阪はもちろん、北海道から沖縄まで、全国各地に出かける日々。事務所設立当初は「ファシリテーターとして食べていけるの?」とよく聞かれたものですが、おかげさまで、色々なお客様から仕事を依頼していただけるようになりました。ありがたいかぎりです。
キッカケは環境NGO
もともとは、環境NGO活動に関わるところが、自分の原点となっています。1992年の地球サミットをきっかけに、環境問題に関心を持ちました。当時の自分は16才。いずれ大学で環境問題を専門的に学び、その解決に関わろう! という気持ちで、上京しました。東京農工大学の環境・資源学科で森林生態学を学ぶかたわら、大学の環境サークルや、環境NGOの活動に関わりはじめます。すると、結局のところ難しかったのは「人と人とのコミュニケーション」でした。同じように環境問題に関心を持つ仲間たちのはずなのに、会議や話し合いのシーンで、何度も意見が衝突し、なかなかまとまりません。知識を蓄え、相手を論破したとしても、一緒に活動をつくってゆく機運があがるわけではなく、むしろ仲間を失うばかり。どうやったら、自分と異なる考えを持つ人とうまくいっしょにやっていけるのだろう? と悩んだものです。
そんな時、アメリカに留学して日本に帰国してきた友人が「アメリカでは、経験の少ない若いリーダーでも、うまく組織を運営できるように、ミーティングや資金調達などについてのトレーニングがさかんに行われているよ」と聞き、一緒にそのトレーニングを受講しにゆくことになりました。当時19才、大学2年生の夏休みのことです。私はそこで初めて「ミーティングをするときには、ファシリテーターをおいてやったほうがいい」ということを知り、アメリカではそれを職業にする人もいるんだ、ということを知りました。そして、「いずれ、これは日本でも必要とされる職能になるかも!」と直感したことを覚えています。
よい師匠に出会い、シビアな場数をたくさん踏むこと
帰国後、一緒にアメリカでトレーニングを受けた仲間と、そのトレーニングの日本語版をつくり、環境問題の解決を志す全国の大学生に、そのエッセンスを伝える活動を始めました。しかし、やはり日本とアメリカは文化や風土が違う国。なかなか浸透してゆきません。そこで、一度、アメリカ式の考えを捨てて、日本人にあった、日本の風土に適したやり方を研究することに切り替えました。知り合いの環境NGOの会議進行などを引き受けるうちに、環境問題以外の社会課題に取り組むNPOの運営支援に携わることになったり、企業のCSRの一環として、さまざまなステイクホルダーとの話し合いをお手伝いすることになったり、行政が開催する住民参加型会議を任されるようにもなりました。
これは、どの職業でも言えることだと思いますが、その分野で一人前の仕事をするためには、よい師匠に出会い、シビアな場数をたくさん踏むことが肝心です。私の場合、日本でプロのミーティング・ファシリテーターとして活動している方はいませんでしたが、環境教育分野のファシリテーターや、まちづくりの分野のファシリテーター、開発教育に関わるファシリテーターの先輩方から、たくさんのエッセンスを学ぶことができました。また、幸いにも、難しいシーンや困った会議など、たくさんのシビアな場数を経験する機会に恵まれました。
私自身、全国各地で会議の進め方やファシリテーションの研修講師などもお引き受けする身ではありますが「研修をしたからといって、人が育つわけではない」というのが正直なところです。結局のところ人が育つのは、その人が覚悟を決めてシビアな場数を踏むという瞬間にあるのだと思います。研修というのは、その覚悟を決めるきっかけをつくる場だと私は思っています。なので、最近の私の研修では、たくさんのことを教えません。ただ、純粋に「おぉ、ファシリテーションって、こんな感じか!」という良質な体験をしていただける機会になればと思って、やっております。
この特集記事は、環境教育分野のプロを志す若いみなさんも、お読みになっているかと思います。ぜひとも、よき師匠に出会え、シビアな場数をたくさん踏むことができますように! 仮に失敗したとしても大丈夫。そこからきちんと学び、成長する力を、私たちは持っているのだと思います。
- 地域に根ざした農業を1からはじめる
〜ヨシオカ農園 吉岡 龍一さんの場合〜 - 住民による自然資源の適切な利用を通した、生計向上と環境保全型農村を目指して
- 科学を伝え、市民と共に考える
〜科学館勤務 科学技術インタープリター 小川 達也さんの場合〜 - 美しい砂浜が美術館
〜NPO砂浜美術館理事長 村上 健太郎さんの場合〜 - いのちの営みを「ひとつのおさら」にのせて
〜カラーズジャパン株式会社 西村 和代さんの場合〜 - よい師匠に出会おう!
〜青木将幸ファシリテーター事務所 青木 将幸さんの場合〜 - アジアの開発途上地域で国際環境教育活動を目指す人のために 1
- 都内でわくわく自然体験!
- インドネシアを全身で感じて
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