機関誌「地球のこども」 Child of the earth

私のアクティブラーニング見聞 2015.11.05

文:西村 仁志(広島修道大学人間環境学部教授 JEEF理事)

はじめに

私は1993年に環境教育の専門事務所「環境共育事務所カラーズ」を開業しました。屋号に「教育」ではなく「共育」とつけたのは「共に育む」「共に育つ」という願いをこめたものですが、これには1980年代後半から、日本の各地で先駆的な取り組みが始まっていた新しい学びのあり方の影響が大きいです。

学習者を主体とし、さらには、実践活動や個人ワーク、グループワーク、ディスカッション等を通じた「創造的な学びの場づくり」は、それまでの「先生から一方的に知識を伝授される学び」のなかで育ってきた私自身にとってもたいへん刺激的なものでした。

そしてとりわけ「環境教育」の展開においては、教育実践を通じて持続可能な社会への変革の担い手をつくるわけですから、当然のことながら「学習者主体の学び」が重要になります。当時はこうした営みに「アクティブラーニング」という言葉こそ使われていませんでしたが、全国各地に、自然学校を創業したり、市民活動や生涯学習を通じて新しい学びのあり方にチャレンジしはじめる仲間たちが登場してきたのでした。

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自然学校における「新しい学び方」へのチャレンジ

自然学校では「いま、ここ」の体験からの学びを大切にし、「教室」という囲われた空間でなく、また細かく区切られた「時間割」もありません。空間と時間の制約から解き放たれ、新しい人間関係や集団の規範をつくるところから、「新しい学び」が始まります。

川嶋直さん(現:JEEF理事長)は八ヶ岳の麓、山梨県の清里で1985年から、当時の勤務先である財団法人キープ協会のもつ宿泊施設と自然体験のプログラムを組み合わせて、大人を対象とした宿泊型自然体験ワークショップの試みをスタートさせました。指導者養成のための「レンジャートレーニングキャンプ」(後に「インタープリターズキャンプ」に改称)、「清里エコロジーキャンプ」と名付けた入門編のプログラムです。

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これらは回数を重ね、参加者からのフィードバックを受けながら、

  • テーマを明確に設定する
  • それにふさわしいゲストを呼ぶ
  • 参加者が計画する時間を多くとる
  • 参加者同士からも学べるような関係をつくる

など、「参加者主体、体験中心、自由で創造的な学び」という運営手法を整えていきます。また「インタープリターズキャンプ」で確立されていった「インタープリテーション(自然解説)」の指導者養成とプログラム開発手法では、「いま、ここ」の自然の姿を読み解き、ビジターにわかりやすく、楽しく伝えるということを、受講者とスタッフによる共同作業と、実践とフィードバックを繰り返して行う「練り直し」を重ねながら行っていきます。

さらに「人間関係トレーニング」「体験学習法」の世界との出会いも自然学校における「学習者主体型の学び」に大きな影響を与えています。

このようにして日本の多くの自然学校は、こうした「学び方」の新しいチャレンジを行うことで、かつては青少年を対象としたものと見られがちだった自然の中での宿泊滞在型、体験型の学習を、大人の学習ニーズを満足させうる内容に育て、また参加した人々を「変革者」として新しい社会づくりに参加させていくきっかけをも提供してきました。

「ワークショップ」からの学び

「参加者主体の学び」は自然のなかだけにとどまるものではありません。演劇や、まちづくり、人権教育等の現場でも「参加型」の手法「ワークショップ」が取り入れられてきました。

私も実行委員会の一員に加わり開催してきた「環境教育ネットワーク千刈ミーティング」(1994〜2007)では、環境や教育の分野はもとより、芸術、科学、宗教、ファッション、旅、食、プランナーなど、さまざまな分野のゲストを招いて、2泊3日の日程に5つの「ワークショップ」を組み込んだネットワークミーティングを行ってきました。それぞれのワークショップではゲストによる話題提供と課題提示、そして参加者によるワークとディスカッション等を通じて作り上げる、筋書きのない学びあいの場が展開しました。

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また1995年の阪神大震災以後、各地で「参加型まちづくり」や「まちづくりワークショップ」が取り組まれるようになり、私もファシリテーター(企画・進行・調整役)として各地の現場に数多く関わりました。住民の主体的な参加を引き出し、合意にむけた議論を重ねて、計画や設計という成果物に反映させるというハードルの高い仕事です。ときには難しい局面も経験することで、参加した住民も私たち関係者も、多くの知恵を得ましたし、新たな手法を編み出したりもしました。

大学における「アクティブラーニング」の導入

さて私は2006年に大学の専任教員へと転進しました。しかしどこかで教育職としての訓練を受けてきたわけではありません。現場からの「自己流」と環境教育・自然学校業界の仲間たちとの「協働学習」で、教育(共育)手法を身につけてきたのです。

高等教育機関である大学は小・中・高等学校と異なり、全国共通の「学習指導要領」、「教員免許」、「検定済教科書」といったものはありません。各大学、そして学部や学科が独自にカリキュラム(教育課程)を定め、必要な教員を独自に雇用しています。現在の勤務校にも、私のような経歴が求められたのでした。

一方で、少子化にともなう「大学全入時代」も近いとも言われ、学生の基礎学力の低下や「何のために大学で学ぶのかわからない」、「周りが大学に進学するから」というように目的意識の低下もみられるようになりました。

また卒業生を受け入れる産業界からは「社会人基礎力」として「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力=前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力」が求められるようになってきています。こうした力は座学だけで対応できるものではありません。

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広島修道大学人間環境学部のプロジェクト型科目「環境プロジェクト演習」 の様子(2014年度)。河野宏樹さん(環境教育事務所Leaf代表、JEEF会員)を非常勤講師に依頼し、西村とペアで「子どもの自然体験」行事の企画運営を学生主 体で行った。

同科目。河野さんがKPを使って学生に説明。

同科目。河野さんがKPを使って学生に説明。

同科目。学生たちもKPで参加。

同科目。学生たちもKPで参加。

未来の社会を拓く学びへ

さて、先述の「千刈ミーティング」で中心的な役割を担ってきた高田研さん(現:都留文科大学教授)は次のように言います。

ワークショップというのは、専門家や社会システムによって分断され、持っていかれてしまった様々な知恵を、生活者(市民)の側に取り戻すプロセス。専門知と生活知を手作業で紡ぎなおす【知の縫製工房】。

こうした議論からは、科学技術が高度に発展し、人工化、システム化、一極集中化が進んだ現代の社会において「生活者(市民)が学びの主体であるということ」の真の意味を考えさせられます。それは、未来のあるべき社会を、対話や議論、そして共同(協働)の作業を通じ、自分たちの手で拓いていくということ。まさに「今、ここ」から学んでいくということに他ならないのです。いま取り組みが推進されている「アクティブラーニング」も、単に新たな教育手法の導入ということだけではなく、こうした文脈のなかに位置づけられるべきだと考えています。

西村仁志

西村 仁志(にしむら ひとし)

広島修道大学人間環境学部教授。博士(ソーシャル・イノベーション)京都YMCA勤務ののち1993年「環境共育事務所カラーズ」を開業。環境教育のプランニング、プロデュースを行ってきた。2006年から同志社大学大学院総合政策科学研究科准教授(5年任期)。2012年から現職に着任し、広島県廿日市市に在住。 著書に「ソーシャル・イノベーションとしての自然学校」(みくに出版)、「ソーシャル・イノベーションが拓く世界」(法律文化社)ほか。

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