文:元 鍾彬(学習院大学 非常勤講師)
韓国の環境教育に関連する法律・機関
韓国の「環境教育振興法」(2008年制定、2015年2月一部改訂)第2条では、環境教育の用語について、次のように定義している。
持続可能な社会を目指すために、学校や社会環境教育団体が、様々な分野で環境教育を実践している。さらに、その第5条に基づいて「国家環境教育総合計画」を5年ごとに樹立することになっている。そして、この総合計画の基に「国家環境教育センター」が2013年に設立された。
1990年頃から、学校や民間環境団体が環境教育活動を行ってきたが、専門的な教育活動に対する、支援や教育関連研究開発が乏しかったことなどについて、問題提起と、専門機関の必要性が継続的に問われてきた。
そこで、このセンターは、環境部傘下の国立環境教育機関として、環境教育実践団体へ総合的・体系的に対応を行うことと、韓国内外の環境教育研究動向などを把握していく研究機関として設立された。同センターの主な事業内容は主に3つある。
一つは、学校と社会環境教育のプログラム開発や普及活動を支援する事業で、これまでの開発された教材・教具を貸出ししている。
また全国中・高等学校の環境プロジェクト学習大会を主催している。中・高等学校の環境教科書の単元に盛り込まれている「環境プロジェクト学習」の実践結果を、一次予選を通して全国大会で発表する機会を提供している。これまでは環境教育を専攻した教師達が自発的に主催してきたが、昨年からは、同センターが中心となって開催している。
二つ目は、環境教育関連団体が実施する環境教育支援事業ということで、主婦などの疎外階層を対象とした、環境教育プログラムの運営と支援を行う活動である。
三つ目は環境教育のネットワークの構築、連携・協力事業として、学校と民間団体の協力と連携を支援し、その活動と情報共有のための広報活動行うことと、同センターの中・長期発展方案の研究などを実施している。このための予算が初年度(2013年)は、約50億ウォンが計上された。
学校での環境教育
初等学校
韓国の初等学校での環境教育は日本と同様に「創意的体験活動(総合的な活動時間)」の中で主に行われている。
中・高等学校
中・高等学校においては、横断的に学ぶ創意的体験活動の時間と選択教科である「環境」教科があり、教科書を通して環境について体系的に学ぶことができる。中・高等学校の環境教科書には、環境プロジェクト学習という単元があり、生徒自ら課題を見つけだし、グループで協力しながら、環境問題を解決するための実践的な活動を促している。実際、中・高校生の活動が社会的に大きな影響を及ぼしてた実践事例が多く紹介されている。
このような環境プロジェクト学習を、国の環境教育専門機関である国家環境教育センターが支援し、奨励していくことの意義は大きい。例えば、学校生活の中で学びを通した実践が、内外に評価されている京畿道の崇信女子高等学校では、校内に環境教育教室を設置し、校長が学校全体で環境教育を推進するよう奨励している。
大学
そして環境教科を教えるため、96年頃から全国の教育大や師範大学に5つの「環境教育学科」が設置された。2000年以降からは、環境教育の専門教員が養成され、学校や社会で活動している。
課題としては、現在環境教科は大学入試や政権の教育政策の変化も激しい中で、環境教科書を選択する学校が少なく、教員採用が低い状況が続いている。
環境教科を選択した学校でも、既存の他教科が統廃合され、担当科目がなくなった教師が環境教育研修を受け、環境教科を教えることもある。それにより、大学で環境教育を専攻した者の採用は厳しくなり、副専攻を履修して他教科へと転向することが起きている。
しかし、環境教育を体系的に学んだ環境教育学科の卒業生は、社会でも環境への関心も高く、民間団体としっかりと結びつき、様々なところで活躍している。
教育課程から除外される
2015年、新教育課程の改定が行われ、汎教科の学習テーマを既存の39個から10個絞る中で、環境教育が外され持続可能な発展教育に含まれた。これに対し、環境教育学科や学会、そして民間環境教育団体は政府に対し、「現教育課程は、気候変動など深刻な環境危機に直面している地球共同体の対応に逆らう行為である」とし、「環境教育の危機」共同宣言を発表し、関連報道資料をマスコミに回した(同年9月)。
韓国環境教育の20年を振り返ると、学校教育の中で、独立教科として環境教科が存在することによって、専門的な環境人材や多様な教材や教具、教育方法などが体系的に開発され、環境教育の質は向上してきた。しかし、普及という量的な面については、まだまだこれからの大きな課題である。
社会環境教育の今
韓国経済が成長するにともない、自然破壊・環境汚染が同時に多発している。91年に発生した洛東江フェノール汚染事件は、川の水を飲料水として使用する流域の人々に、深刻な健康被害を起こした。この事件は同時に、国民の環境問題の深刻性や、環境意識の向上をもたらした。
当時の反公害運動連合(現環境運動連合)や宗教団体が実施した環境教育(衝撃的な方法をもちいた活動※2) は、狭い範囲の環境を捉えた活動であった。こういった中で、仏教団体が運営するエコ仏陀(仏教環境教育院)では、韓国初の環境教育リーダー養成講座を実施し、指導者育成が開始された。現在の民間環境教育団体を運営する代表は、初期の研修メンバーとして参加していた人が多い。
現在は、多様な環境教育関連団体が組織され、行政や企業などの委託事業を受けて、環境教育研究、教材開発や人材育成事業など、活動の範囲も拡大している。
知識型から体験型へ、そして専門的に
2000年頃までの民間団体での環境教育方法の特徴は、自然を案内する解説方法や、講座を中心とした教育活動が主であった。そして学習者中心の自然体験活動へと移行しながら、団体独自の教材開発などを行い、活動範囲も学校や地域社会へと広がっている。
さらに、2000年半ばからは、地域を中心とした探求活動や中・高校等学校にある環境プロジェクト学習を民間団体でも実施するなど、環境教育の方法についても色々と模索している。民間環境教育団体での活動家も、体系的な環境教育を実践するために大学院へ進学して学ぶなど、より専門的な環境教育を学び実践している。民間団体の活動の大きな課題としては、資金不足による活動領域の縮小や優秀な人材の喪失などが浮上している。
05年、環境教育団体や個人のネットワーク組織である「韓国環境教育ネットワーク(KEEN※3)」が発足。毎年1回のフォーラムを開催している。今後、KEENの活動が、韓国内だけでなく、日中韓の民間環境団体との連携と協力をはかり、さらに活発化していくことを願っている。
※2:例えば、筆者が高校生だった頃(1991年)、カトリック教会の夏キャンプで、大気汚染の実験ということで、2~3人用のテントの中に蚊取り線香を使って煙を充満させ、7~8人の子どものテントの中で2〜3分我慢させるような体験活動を行うなどの衝撃的な用法で、問題の深刻さを感じさせる活動が、民間における環境教育の始まりであると言えよう。
※3:韓国環境教育ネットワーク(KEEN)
http://www.keen.or.kr/index.html」
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。