文:廣瀬 大和
パチャママとは何か?
南米にあるボリビアという国を知っているだろうか? 近年、天空の世界と評されるウユニ塩湖がある国だ。実はウユニ塩湖以外にも、アマゾンの森やアンデスの高地が織りなす壮大な景色が広がっている。そんな自然豊かなボリビアには、「パチャママ」という言葉がある。原住民の信仰で、「パチャママ」は「母なる大地」を意味する。
そして、ボリビア史上初めての先住民出身の大統領エボ・モラレスは、パチャママを大切にする新教育法を策定した。「母なる大地を大切にしよう」という教育で、環境教育を通して地域社会に貢献することが目的で、学校現場で義務化されたのだ。
ボリビアの環境教育の実態
私が青年海外協力隊としてボリビアのタリハ県教育委員会に赴任した当初は、環境教育の授業を観察していた。ペットボトルなどのゴミを利用してロボットを作るなどのリサイクル工作の授業が多かった。
しかし、工作中に出たゴミを生徒は地面に捨て、授業が終わってもそのゴミが放置されていた。教員はそれに対して注意はしない。結局、作って終わってしまっていて、「母なる大地を大切にしよう」という教育とは程遠いものであった。
それもそのはずで、教員らは、環境教育などをやったことも学んだこともない。いきなり政府の命令で環境教育をするように指示されても、何をして良いのかが分からなかったのだ。そのために環境意識も低く、走行中のバスの窓からポイ捨てするなどは当たり前であった。
子どもたちが社会に与えた影響
私の活動のメインは、市役所と共に分別回収をして集めた生ゴミを堆肥にリサイクルし、農場に販売することであった。そのため、学校での分別教育の普及は急務であった。
そこで、思いついたのが学校で堆肥を生産して、その堆肥で野菜を作り、近隣の人に販売することだ。学校では生ゴミの分解スピードが速いコンポストを用いた。教員は、生徒に生ゴミを毎日学校に持ってくるように指導する。その後、生徒は家庭で両親にこう言う。「ママ、学校に生ゴミを持っていかないといけないから分別をして」と。
このプロジェクトを実施したコミュニティの生ゴミ回収量は、他の地域と比べても多い。生徒らも、最初はコンポストの土に触れることを嫌がっていたが、いつの間にか土遊びが好きになっていた。
コンポストを使った環境教育がブームに!
このプロジェクトが軌道に乗りだし、驚いたことがある。それは、近隣住民が自発的に学校に生ゴミを持ってくるようになったことだ。
なぜ、生ゴミを学校に持ってくるのかを聞くと、「子どもの環境への意識がすごく変わった。あの子たちは、自然と人間とが共存できる社会を目指している。だったら、家庭からでた生ゴミをリサイクルして、私もゴミの量を減らすお手伝いしたい」と言っていた。私は学校の子どもたちが地域社会に与える影響の強さに驚いた。
この堆肥を使った環境教育が注目され、任地の環境教育ブームの火種となり、計18校130人の教員に指導した。
ここまでプロジェクトが大きくなった背景には、プロジェクトを最初に実施した教員たちの頑張りがある。上手にスペイン語も話せない一人の日本人と共に、プロジェクトを一緒にやってくれたその教員たちには感謝でいっぱいだ。
これからも「パチャママ」を大切に、人間と自然とが両立する国になることを願っている。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。