震災から立ち直ろうとする福島の子どもたちに、屋内でも楽しい時間を過ごしてもらいたい。そんな想いに駆られて、gooddo(グッドゥ)というクリック募金サイトでみなさまからいただいた支援金をもとに、3年ぶりに福島県いわき市を訪ねました。
今回は、特別篇として、いわき市の幼稚園で実施したワークショップの様子をレポートします。
再び、いわきへ
いわき市では、東京電力福島第一原子力発電所の事故後の除染作業が進み、外遊びをする子どもたちの姿を少しずつ目にするようになりました。しかし、未だ不安を拭いきれていない小さな子どもを持つ保護者が数多くいることも事実です。
そのようなご家庭に寄り添うべく、2013年に、いわき市内の幼稚園児を対象としたGEMS講座と、幼稚園の先生方を対象としたリーダー養成研修を実施しました。このときのリーダー養成は前に向かうエネルギーと明るさに溢れた、素晴らしい講座になったことを今でも鮮明に思い出します。
あれから3年。また幼稚園の子どもたちや先生方に会える。今回の訪問を提案した時に「いわきの地で我々が前進していることをお伝えしたい。」と、園長先生がおっしゃっていた言葉を道中思い出し、期待と少しの緊張が混じった高揚感を感じていました。
部屋の中でも冒険だ!
2016年1月12日朝、いわき市にある、かなや幼稚園を訪れました。「おはようございます!」「じぇむずでしょ?」入り口をくぐるやいなや子どもたちが元気な声で迎えてくれました。「ここの園はよくいろんな人が来るから、子どもたちも物怖じしないんです」と先生。これはプログラムがおもしろいことになりそうです。
今回はあおぞら組(年長組)の26名の子どもたちと『動物の自己防衛』を行います。このプログラムでは、まず恐竜がどのようにして身を守っていたかを、絵を見ながら想像することから始まります。例えば、トリケラトプスは大きな角や厚い皮膚を、ステゴザウルスはこん棒のような尾を備えています。
早速子どもたちの想像力が発揮されます。ティラノザウルスの観察をした際に、鋭い歯で何を食べていたのだろうという話題になると、ある女の子が「カボチャとか?」と会話に入ってきました。なるほど、確かに硬いものを食べるのに向いている歯だ! この子は鋭い歯をどう使うかを自分なりに考えたわけです。GEMSでは実際に発見・証明されているかどうかではなく、このように子どもたちが自分の目で見たことからイメージや論理を膨らませていくことを大切にしています。
観察の後は、ティラノザウルスと同じ時代に生きていたという架空の「まったく身を守る手段をもたない生きもの」に手を加えて、自分なりの防衛機能を身につけさせます。ここでも子どもたちの想像力が大爆発!体中をトゲで覆ったり、シマシマ模様で目をくらませたり、はたまた火を噴いたり、羽で飛んでいったり…。26匹の「元・最弱の動物」が教室中を所狭しと闊歩します。中には逆にティラノを食べてしまうのではないかというぐらい強化された生きものもいました。
そんな子どもたちの活き活きとした姿を見られたことも嬉しかったのですが、それを見つめる先生たちの穏やかな表情を見たときに、本当にもう一度ここに戻って来られてよかったと感じました。
「伝える」ということ
東日本大震災からこの3月で5年が経ちます。未だに多くの課題を抱えている地域もありますが、少しずつ復興の足音は近づいてきているように感じました。2011年に生まれた子どもたちは現在5歳。2年後には、幼稚園・保育園に通うのはすべて震災以降に生まれた子どもたちになります。
子どもと関わる現場では、「震災を経験していない世代にどうやってこの体験を伝えていくのか」という新しいチャレンジが起き始めています。ただ、それは被災の恐怖、悲しみ、その後のつらさといった大人のネガティブな感情を引き継ぐためではなく、子どもたちがそういったことがあった土地に愛着を持ち、逞しく育っていくことを後押しするために伝えるのです。今回いわきを訪れてそう強く感じました。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。