機関誌「地球のこども」 Child of the earth

ネパールの人間開発3 2016.03.30

文:新井和雄

今回はネパール大震災後の子どもたちについて述べたいと思います。

 

大地震の発生

2015年4月25日、ネパールの首都カトマンズの北西77キロメートルを震源にマグニチュード7.8の大地震が発生しました。ネパール全土に甚大な被害をもたらし、インドやバングラデシュなどの周辺の国々でも、大きな被害が報告されたことは、記憶に新しいところかと思います。

カトマンズ周辺の伝統建築物群など多くの世界遺産は倒壊。農村部においては、レンガ造りの古い家並みは、軒並み破壊されました。

近隣諸国をはじめ、国際機関の緊急支援部隊は迅速な対応をし、我々ロータリークラブも仮設テントや食料、医療物資など、命をつなぐ支援に奔走したのが、まるで昨日のように蘇ります。

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教室の壁に描かれた地震時の避難経路
子どもたちは年に2回避難訓練をして身を守る方法を習得しました。

東日本大震災から学んでいた子どもたち

ロータリークラブが支援してきた学校は、貧しい地域が対象です。子どもたちの家は、都市部においてはバラックか、良くてもレンガ積みにトタン屋根。山岳地域においてはそれらが山間の斜面や川辺にあります。

地すべりで家を失ったり、瓦礫がせき止めた川が増水し、水没被害にあった子どもたちが沢山おります。自然災害でもまた、貧しい人々ほど多くの被害を受けることを、まざまざと見せ付けられました。

こうした状況の中、1人の犠牲者も出さなかった支援校がありました。

2011年3月11日、東日本大震災で日本が未曾有の被害に遭ったことはネパールでも大きく取り上げられました。その際、いつもネパールを支援してくれている日本の窮状を見て、日本の友人に祈りを捧げたいと、千羽鶴を折って日本の子どもたちを励ました学校です。

それを機に、カトマンズには70年前に大地震があった歴史を学び、そして日本の状況に学び、いつ来るか分からない震災に備え避難訓練をして来た学校です。震災当日は土曜日で休日でしたので、子どもたちは学校にいなかったのですが、地震の時の対応を自宅やそれぞれの居た場所で実践したと聞きました。

自然災害に対応する知識をもった子ども達が、家族や自らの命を守ったことに、教育の力を強く感じた瞬間でした。

ワークショップで飛び出す子どもたちの意欲

大震災から4ヶ月が過ぎた9月上旬。まだ、震災の傷跡が各地にあらわなラリットプルで、ロータリークラブの人間開発企画として、2校を訪れワークショップを行いました。

一つ目はJEEFの佐藤秀樹氏による環境教育のワークショップです。自分たちの住む街を将来どういう環境にして行くか、子どもたちが街づくりを考えるというものです。教員から教えられる座学が中心のネパールで、子どもたちはどういう反応をするのか、はじめは心配でした。しかし、一つのアイデアに活発な議論が交わされ、グループごとの発表では、自信たっぷりに、自分たちが考えた街を自慢していたのは驚きでした。

二つ目はJAXAの鈴木明子氏による宇宙の授業です。ロケット打ち上げからゼログラビティーの世界まで、初めての映像を目の当たりにした子どもたちの目は輝き、明子先生は質問責めに遭いました。子どもたちの発表では、将来JAXAやNASAで働きたいというものから、山岳地域が多いネパールは人工衛星を使った放送が必要だといった、思いもかけなかった意見が披露されました。震災で辛い思いをしている子どもたちですが、学びの意欲に圧倒されました。

人間開発とは
「開発の基本的な目標は人々の選択肢を拡大することである。これらの選択肢は原則として、無限に存在し、また移ろいゆくものである。人は時に、所得や成長率のように即時的・同時的に表れることのない成果、つまり、知識へのアクセスの拡大、栄養状態や医療サービスの向上、生計の安定、犯罪や身体的な暴力からの安全の確保、十分な余暇、政治的・文化的自由や地域社会の活動への参加意識などに価値を見出す。開発の目的とは、人々が、長寿で、健康かつ創造的な人生を享受するための環境を創造することなのである。」 マブーブル・ハック  国連開発計画(UNDP)
JAXA鈴木明子先生による宇宙の授業の様子。初めて見るゼログラビティーの世界に驚く子どもたち。

JAXA鈴木明子先生による宇宙の授業の様子。初めて見るゼログラビティーの世界に驚く子どもたち。

教育支援

なぜネパールに教育が重視されるのでしょうか。教育開発の到達点は、ネパール自身が賢い国民を育て、自分たちでネパールの未来を描くケイパビリティを持つことなのではないでしょうか。

我々ロータリークラブや国際機関、先進国は、途上国が自ら判断する力を持つために手を差し伸べるのであって、西欧化を押し付けるものではないはずです。この子どもたちが街づくりをし、国づくりをして行くべきなのだと思っています。

ひきつづき現地に寄り添い、ネパールの子どもたち、地球の子どもたちの笑顔の輪が少しでも広がるように、これからも支援を続けて行く所存です。

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新井 和雄(あらいかずお)

国際ロータリー第2820地区、下館ロータリークラブ会長。日立メディカルシステムズシンガポール社取締役としてアジア16カ国に配置した拠点の技術者指導に従事。現在はホテル、環境リサイクル、貿易などの企業経営、ネパールでは20年にわたり教育開発を実施中。

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