機関誌「地球のこども」 Child of the earth

環境スポーツイベントを通じたCSR 2016.06.12

インタビュー:竹山 史朗(株式会社モンベル)

環境省「第3回グッドライフアワード」環境大臣賞グッドライフ特別賞を受賞したSEA TO SUMMIT®。2016年は全国9ヶ所で開催予定となっている。全国の地域を巻き込み年々拡大しているこの環境スポーツイベントのねらいはどこにあるのだろうか、サポート企業の株式会社モンベル広報部竹山史朗さんにお話を伺った。

肌で自然の大切さ・愛しさを感じる

海で発生した水蒸気は、雨や雪となって山に降り、やがて川となって森や里を潤しながら、再び海へと還ってゆく…。そのような自然の循環に思いを巡らせ、人力のみで海(カヤック)から里(自転車)、そして山(登山)へと遡って行く中で、かけがえのない自然とふれあい、自分たちを取り巻く自然環境について再認識するための環境スポーツイベント。それが「SEA TO SUMMIT®」である。

ここまでどっぷりと自然に浸かると、やはり意識はおのずとと変化していくものなのだろうか。竹山さんは言う。「アウトドアスポーツに親しむと、自然の大切さがわかっていきます。そういった環境に対する意識を無理矢理教え込むのではなく、おのずと醸成するのです。自然の中で身体を動かすと気持ちいいねとか、楽しいねとか。理屈ではなく感覚的に、愛おしむ気持ちが芽生えるのではないでしょうか。」

参加者は、基本的に自然が好きで、やはりある程度環境意識をもっている方が多いようだ。
「自分が遊んでいるフィールドにゴミが落ちているのは嫌ですし、壊すようなことはしません。最近では本当に、山のゴミが減りました」。まず、自然の価値に気付くことが、環境意識への第一歩となるはずである。

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世界から地域に旅行者を呼ぶ

竹山さんたちが各地で年に一回SEA TO SUMMIT®を実施しながら考えていることがある。
「例えば、歩きや自転車で地域を旅するとか、カヤックを楽しみにくるなど、常に人々が戻ってくるような地域にしたいのです。そしてそれが日本全国に繋がっていけばいいなと考えています」。

そして、SEA TO SUMMIT®を一歩すすめ、365日いつでも快適な旅ができる環境作りを行う取り組みとして、昨年から「ジャパンエコトラック」の運用が始まった。これは、日本各地域の自然や文化を、自転車・カヌー・カヤック・ウォーキング・登山などのアクティビティを通じて楽しみながら旅をする。そんな新しい旅のスタイルである。「豊かな自然」を観光資源として改めて見つめ直し、アウトドアスポーツを楽しめるルートを広く紹介することで、日本全国のみならず世界から旅行者を呼び、地域振興に結びつけるねらいがある。

鳥取県のルートでは道路に路面表示まで付ける整備がなされ、ルートマップを手に入れてそこを訪れた人は、道路表示に従って旅ができるというような仕組みになっている(写真1)。また、道路整備に代表されるハード面だけでなく、地元の受け入れ態勢を充実することが必要である。

路面表示

写真1

 

例えば、協力店でのトイレ・給水の対応や、バイクスタンド・空気入れの貸し出しサービス(写真2)。空港では、自転車を組み立てたり、着替えたりする場所の確保。さらに、荷物を宿まで送っておいてくれるサービス。これは、旅行者が空港に着けば、そこからすぐに身体一つでスタートできる工夫である。

写真2

写真2

このように、交通インフラや旅行者をサポートする仕組みを整えていこう、常に仕組みを改善しながら地域を活性しよう、という目標がジャパンエコトラックにはある。地域振興の一つの切り口として、自然を活用していきたいという思いは自治体にも広がっている。

では、これら地元の行政、企業、民間団体との連携は、モンベルが主導しているのだろうか?

「誰かがきてそこで何かやってくれる。ということでは地元の参加意識が高まりません。SEA TO SUMMIT®では地元の行政、企業、カヌーや登山、サイクリング等の団体に参加していただいて、地域の実行委員会が運営していくことを基本にしています」。モンベルは自治体の相談役であったり、コースの選定を行うなどをしている。地域の人々が主体にならなければ、本質的な地域振興とはならないはずだ。

ビジネスとCSR活動の一貫性

現在モンベルクラブ会員は63万人。年会費をサービスの提供やCSRに使っている。その会員のインセンティブの1つとして、モンベルの提携施設「フレンドショップ」で割引などの優待サービスを受けることができるという仕組みが生まれた。ウェブサイトや会報誌では、フレンドショップで受けられる優待サービスと共に、その地域(フレンドエリア)の魅力も一緒に発信されている。フレンドエリアの情報発信に力を入れるに至った経緯について訊いてみた。

当初はフレンドショップという形で、施設との一対一の関係であったが、地域として提携できないか?という相談を受けるようになった竹山さんたちは、はたと気がついた。

「会員様は必ずしもフレンドショップを目的にして行くのではなく、また、食べることや宿泊だけを目的に行くわけでもありません。そこにある自然、山に登り海に行くことが一番の目的なわけです。であれば、地域としての魅力を発信しないと意味がない」と。そんな気づきが、フレンドエリア(地域)へと拡大させ、今では県が丸ごと「フレンドエリア」という地域まで誕生している。

このように盛んになったモンベルの地域連携の中で「地元の自然や価値にきちんと目を向けることはできないか」という思いが浮かび上がってきたことも、SEA TO SUMMIT®が生まれるきっかけとなっている。

世間からモンベルはどう見られているのだろうか。もはや単なるアウトドアメーカーやブランドという位置付けではあるまい。自治体にとっては、地域振興にむけたパートナーとしての役割も担っている、地域に寄り添う企業といった印象を持った。

商品が一番売れるのは都市ではあるが、実際に使用される場は地方(自然の中)である。その地方の価値が高まっていかないと、都市でも商品が売れるはずがない。モンベルの活動は全て繋がっているのだ。
文責:高松敬委子

 

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竹山 史朗(たけやま しろう)

1988年モンベルに入社。営業、生産などを経て2000年よりWEBサイトの立ち上げに携わり、その後広報の責任者となる。マーケティング全般、モンベルクラブ会員組織の運営、イベント運営、CSRなどを担当。最近ではアウトドアの知見を活かした地域の活性化などに関わることが多い。

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