機関誌「地球のこども」 Child of the earth

キーワードは『そば』と『ヤク』!? 地域に眠る素材でお土産開発 2016.03.15

 【実施期間】2015年1月~2017年1月
【実施地】ブータン王国ハ県
【主催】独立行政法人国際協力機構(JEEF受託)
【協働】王立自然保護協会(RSPN※1)

前回11、12月号では、観光開発に欠かせない「お祭」のことをご紹介しましたが、今回は、もうひとつ観光に欠かせない要素、「お土産」について、事業の進捗状況と共にお伝えします。

 

ブータンのお土産事情

現在も、日々の生活の中に仏教に根ざした伝統文化が息づくブータンでは、お土産も一般的に伝統工芸品そのものが売られています。その中でも、織物製品、竹・籐製品、漆器、木彫製品、仏教絵画などが、街のお土産物屋でよく見かける商品です。また、蜂蜜やレモングラスのスプレー、天然石鹸、乾燥松茸などのオーガニック商品もお土産ラインナップに並びます。
しかし、まだまだ商品のバラエティは少なく、商品自体や包装の品質も不均一。そして何より、海外からの旅行者が自国に帰り、日々の生活で使えたり、友人に配れるものがほとんどない、という大きな課題を抱えています。しかし、これは逆手に取れば、お土産開発を行う余地が十分にあり、無限の可能性を秘めているとも言えるのです。

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ハ県の伝統的な景観を彩るそば畑

ポプジカ谷での課題を活かして

前回のCBST(※2) プロジェクト・サイト、ポプジカ谷でも「お土産開発」は活動のひとつに含まれていました。地域の目玉であるオグロヅルをモチーフに、木彫り細工や羊毛を使ったフェルト細工など、様々な商品アイディアが生まれました。しかし、作り手の多くが農家の女性で、どうしても片手間で作業をしなければならない状況であったことから、売り物としての品質管理、そして常に在庫を確保するための生産システムの構築という点で、大きな課題が浮き彫りになりました。
そこで今回のハ県におけるCBSTプロジェクトでは、開発する商品を絞り、専従のビジネスマインドを持った人材を作り手として起用する方向性で、お土産商品開発を進めることにしたのです。そうして浮かび上がってきた素材が、「そば粉」と「ヤク」。担い手は、地元の中堅ビジネスマンが率いる若者グループです。

品種が混ざり、粒が小さいブータンのそば

品種が混ざり、粒が小さいブータンのそば

地元産のそば粉を活用

標高が2,700mを超えるハ県では稲作ができないことから、古くから蕎麦、小麦、大麦といった穀物類が栽培されてきました。カブの葉や山椒で作った具をそば粉の皮で包んだ蒸し餃子ヒュンテは、ハ県の有名な特産物です。ただ、ヒュンテはお土産として持ち帰るのは難しく、かと言ってそれ以外のそば粉加工製品はありません。
ブータンの蕎麦は品種が混ざっていて粒が小さく、日本の蕎麦のように製麺するのも至難の業。そこで我々プロジェクトチームが発案したのが、そば粉クッキー。このような加熱商品なら、オーブンと包装用機器さえあれば、お土産としての継続的な商品供給が可能なはず。しかも、今までに無かった「配れるお土産」としての需要も見込めそうです。「小麦よりもカロリーが低いので、現代人には人気なはず」「ブータンらしさを出すために、唐辛子やチーズのフレーバーを取り入れたらどうか?」など、地元の人たちの間でも議論が盛り上がっています。

そば粉餃子ヒュンテ

そば粉餃子ヒュンテ

ハ県ならではのヤク毛製品

もう一つ、注目したのはヤクの毛。標高の高いハ県は、ブータンの中でヤクの飼育数が最も多く、ロープ、テント、家畜の首輪など、あらゆる場面でヤク毛が日常的に使われています。その黒くて固い毛は頑丈で水にも強く、一度作ったら何十年もの使用に耐えるため、それぞれの工芸品には名称がつけられ、家族のストーリーと共に、世代を超えて受け継がれてきました。ただ、近年はヤク飼い自体の減少に加え、安価な輸入品の影響により、ヤク毛製品を作る伝統技術が存続の危機にさらされています。そんな今こそ、この価値ある技術を若い世代に継承していくと同時に、現代の暮らしに合ったお土産品として生まれ変わらせるチャンスなのです。
今、産声を上げた、ハ県の若者による「そば」と「ヤク」を活用したお土産開発プロジェクト。やがては日本の皆さまのお手元にも届けられる日を夢見て。どうぞ暖かく見守っていただければと思います。
文責:松尾 茜(JEEF職員)

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