文:たしろ じゅんこ(バルンバルンの森)
出会った森は荒れ果てたキャンプ場
満開の桜がとても気持ちのいい森に、わたしたち夫婦は出会いました。その森は廃園寸前の小さな町営キャンプ場。1999年、きっかけはひょんなことから。見ず知らずのおじさんに「キャンプ場をやってみらんかい」と声をかけられ、訪れた場所でした。
荒れ果ててはいましたが、わたしたちふたりは「ここで一緒に自由に何かができたらいいな」とすごくワクワクしていました。この時イメージしたのは、3歳の息子と2歳の娘との4人の生活です。主人は林業、わたしは子育て真っ最中の専業主婦。そんなわたしたちが森のキャンプ場を運営するというのは、とても高いハードルでした。
役場からは「赤字が続く施設だし、やる気がある若い人たちに入ってもらっても、ご家族の将来の芽を摘むことになる」と反対されました。優しい配慮からの言葉でしたが、それでも諦めきれませんでした。
ゆっくり丁寧に暮らすために
役場に計画書を出しては断られるという繰り返し。何度も出し続けました。「まずはアルバイトからやってみる?」という言葉をもらったときは本当にうれしかったです。このとき、森と出会ってから3年が経っていました。くじけることなくチャレンジできたのは、この場所でなら夫婦でいる時間をとても大切にしながら、暮らしを築いていけるという確信があったからです。
わたしたちはそれまでも仲のいい夫婦でしたが、ある日ふたりが生きていくうえで大切にしたい「根っこ」が、それぞれ違うことに気付きました。主人は仕事、わたしは暮らし。そこで大切にしたいことを話し合って見つめ直しました。そよ風を心地よいと感じ、ふたりでそんな気持ちを共有できる「ゆっくりと丁寧に暮らす日々」をつくることに決めました。理想の暮らしを実現するためには、諦めているひまはありません。
そして、荒れていたキャンプ場を、生まれ変わらせるための日々がはじまりました。たまっていたゴミを片付け、新しい看板をつくってと、毎日やらなければいけないことは山のようにありました。
準備を整えて、オープンしてからが本当の勝負です。キャンプ場が忙しくなる初めての夏。お腹に3人目の子どもがいたわたしは臨月を迎え、パンパンに膨らんだお腹で、上の2人の子どもを遊ばせながら雑巾がけをしていました。いま思い出すだけで恐ろしくなるくらいです。このころの主人は昼間に林業。帰ってくると、わたしとバトンタッチしてキャンプ場の仕事をするという日々が続いていました。1979年生まれのキャンプ場は古くて改修することだらけ。やっても、やってもキリがないくらいでした。だけど、夫婦でひとつのことをするのがとっても新鮮でした。
キャンプ場の運営をしていくうちに、日常の業務だけでは物足りなさを感じるようになりました。それもそのはずです。もともとは、この場所で何か自由なことをやりたかったんですから! それからは、この空間に自分たちの好きなもの、やりたかったことをとにかく実現していきました。石窯やツリーハウスなどをつくり、森というキャンバスに、フリーハンドでスケッチするように、いろんなものを形にしてきました。
大事な「夫婦ミーティング」
仕事に子育てに慌ただしい日々を送るなかで、大事にしていることのひとつが「夫婦ミーティング」。仕事や予定の確認や子どもたちのこと、抱えている不安など、なんでも話し合います。分かっているつもりのことでも、ちゃんと口にすると、もっとわかりあえるようになるのです。気持ちのすれ違いや素直になれなかったことがグーーーンと減り、相手に優しくなれます。夫婦仲がいいということは、わたしたち流の子育てにもつながります。ふたりが楽しく毎日を過ごしていると、子どもたちも安心して育っていけるからです。
この森の新しい可能性を見つけたくて、フェスやマルシェなどを企画し、2日間で3,000人が集まるイベントを開催することもできました。いまは森の静かなひとときを過ごしてもらえる読書室「ヨムネルの巣」をつくり、また、木漏れ日の差し込む森を会場にした「小さな森のウエデイング」もはじめました。
目指しているのは訪れた方が思わず笑顔になる空間づくりです。小さなことでも、丁寧にコツコツやって形にすることには喜びがあります。一番大事だなと思うのは、わたしたち夫婦が楽しんでいること! そんな原点を忘れずに、かけがえのない毎日を過ごしています。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。