文:田中 加奈子
「あたりまえ」の大自然
ウガンダは6000m級の山、ツルが踊る湿地、ゴリラが遊ぶ森、世界3位の湖、ライオンが駆ける草原を持ち「アフリカの真珠」と呼ばれるほど自然環境が豊かです。しかしこの素晴らしさはウガンダの人々には「あたりまえ」。この認識からか経済優先の政策が進み、国立公園内で石油採掘が行われ、森林保護区の一部は広大なサトウキビ畑に姿を変えました。
環境教育隊員の私は、有力者が集まる会議に出向き、「先進国の過ちから学び、ウガンダは環境保全と経済発展の両立を進めて」と訴えましたが、参加者に「一度ぶち壊す経験をしないと私達もどんなものかわからないのです。」と言われてしまいました。ダメだこりゃ。もっと今あるものの価値を認め、自分たちの「あたりまえ」を「宝物」とする意識改革を促す活動をしなければと思い立ったのです。
ポッドキャスト製作配信
ウガンダの「あたりまえ」の1つは野鳥です。観察されている鳥は1060種類以上、ハシビロコウなど面白い種類がいるにもかかわらず、鳥についてウガンダ人に聞くと、「食えるか、食えないか、それが重要だ」という答えが返ってきます。
そこで、野鳥ガイドの協力を得て、各回1種類の鳥のさえずりと生態を紹介するポッドキャスト番組(※1)を製作し配信しました。1本3分にまとめた音声データのため通信料が安く、気軽に聞けたようで「野鳥の鳴き声を意識するようになった」「鳥って意外と面白い」など想像を超える反響がありました。海外からも閲覧があり、配信が終了した今でもアクセスは伸びています。さえずりや生態のデータはイベントや講義で二次的に利用し便利でした。また、この番組を自然ガイド達が野鳥を勉強するツールとして役立てくれています。
※1:NFA Bird Podcast 英語版
※1:NFA Bird Podcast 日本語版
動画で競い、世界が参加森林保全合唱コンクール
次の「あたりまえ」は驚異のスピードで成長する木。しかし、近年の人口増加により高まる需要で違法伐採が繰り返され、100年前に国土の約半分を占めていた森林は、今や1割程度になってしまいました。
そこで「木は永遠ではない、育て守るべきもの」という主旨の歌を音楽が得意な方に作って頂き、これを歌う合唱コンクール(※2)を実施することに。webサイトで応募を募り、合唱している様子を撮影しその動画を送付してもらい審査、結果発表もサイト上で行うという流れにしたところ、世界各地から応募がありました。
※2:森林保全合唱コンクール
音楽の力は偉大で、この課題曲を繰り返し練習することにより、子どもたちが森の役割を学び、伐採問題への理解が深まりました。さらに、子どもたちは家でこの歌を口ずさんで家族にメッセージを伝えてくれていたのです。
そして、練習の際によそ者の私がウガンダの森の稀少さ、素晴らしさを日本と比較し話すと、「あたりまえ」だった自然は、実は「宝物」だったと認識してくれるようになりました。
コンクールの結果発表後、最優秀賞の学校で記念植樹を行いました。木を植えながら子どもたちの口から自然に課題曲のメロディーが…。たちまち大合唱となり、思わず顔が涙でいっぱいになりました。あの日から3年。あの時植えた木はそろそろ花を咲かせる頃です。この活動に関わった人たちが、自分たちの自然を宝として、守ってくれていますように。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。