文:鴨川光(ジャパンGEMSセンター研究員)
「ブータンでGEMSのワークショップをしてもらえませんか?」遠くヒマラヤ山脈の麓からオファーをいただいたのは一年前のこと。なんでも国内で教育改革の動きがあり、GEMSのアプローチを紹介してほしいとのことでした。それならばと10月中旬にブータンでワークショップツアーを敢行しました。
幸せの国の子どもたちに会いに
日本では「幸せの国」として知られているブータン。首都ティンプーにいても周囲の山々やきれいな空を眺めることができ、国民の多くが仏教の教えをとても大切にしているのどかな国です。
教育に目を向けてみると、日本と大きく違うのは小学校から義務教育でないこと。教育を受ける権利は保証されているものの、何歳から教育をスタートさせるかは自由。だから、同じ学年なのに違う年齢の子たちが一緒に学んでいます。そして国際社会で生き残っていくために、授業がすべて英語で行われているのも特徴的です(母国語はゾンカ語)。
小学年生時には、全国一斉に受けるBCSEA(※)という学力テストがあります。このテストの成績がとても重要で、先生たちはとにかくカリキュラムを終わらすのに必死。この流れを変え、低学年時に詰め込みではない豊かな学びを提供したいという機運が国内で高まっているそうです。
※BCSEA:Bhutan Council for School Examination
and Assessment
楽しさは万国共通
最初に訪れたのはティンプーにある私立小学校。ここでは3年生たちと『カエルの算数』をやりました。3年生という重要な学年の授業を割いてまでGEMSに時間をくださったのは、それだけ今の詰込み型ではいけないという危機感があるからとのこと。
サイコロを2つ振り、出目の合計で駒を動かして行くゲームをしたところ、子どもたちは暗算が苦手な様子。「いつもはこんなにたくさん計算しなーい」と言いながら指も使って一生懸命計算してくれます。「こんな楽しい算数があるんですねぇ!」と先生方もいつもと違う子どもたちの様子に驚いていました。
そんな先生方とは、GEMS Cafe in Bhutanとして『ウーブレック』にチャレンジ! 最初は何が始まるのだろうと緊張した面持ちだった先生方も、始まってみると未知の物質に興奮しきり。「なんだこの感触!?」「これ生きてるんじゃない?」「ワーォ! ベタベタだぁ!」と子どものようにはしゃぎながら、こちらが羨ましくなるぐらいピュアで、丁寧な探究の時間を過ごしていました。
終了後、参加者から「今日のプログラムに強烈にインスパイアされたわ!自分の教育活動に向けてすごくモチベーションが上がった!ありがとう!!」と声をかけていただきました。ブータンでは学校の先生以外(NPOや学習塾など)が教育に関わることがほとんどないそうで、GEMSセンターが提供する「学校教育ではない教育」に刺激を受けたようでした。
西で、東で、浮く?沈む?
ティンプーから断崖絶壁の道を車で西へ6時間行ったポブジカ谷にある小学校でもワークショップをしました。ここでやったのは「浮く? 沈む?」というアクティビティ。「今日はいろんなものが水に浮くか沈むか調べるよ」と伝え、実験スタート。こんな簡単なこと誰でもわかるしといった余裕顔でスタートした子どもたちでしたが、2つ目の塩ビのおもちゃであっさり予想が外れて目がまん丸に。
そこからは探究の様子がガラッと変わって、一つ一つのアイテムをよーく観察するようになったし、予想も周りに合わせるのではなくて自分の考えを表現するようになりました。終いには、一人の男の子が「ぼくの数珠でやってみてもいい?」と。さすが敬虔な仏教国、小学生でも数珠を持ち歩いているとは! 探究心がくすぐられ、こちらが介入しなくてもラーニングサイクルがぐるぐる回っていきます。最後に「予想が外れるっておもしろいよね」と語りかけたら、先生も含めてみんな大きく頷いていました。
GEMSだからできること
ワークショップをする中で感じたのは、ブータンの人たちは「受け止める力」がとても強いということ。自分が持っている知識と違う結果が出た時に、変にこだわるのではなく素直に驚き、情報を更新していくことができるのは本当に素敵です。
一方で、そういったマインドだからこそ、先進国からの技術をどんどん受け入れてしまって、伝統的な生活や文化が急激に変わってしまった側面もあります。子どもたちの素直な心の上に、情報を検討する力や先を予測する力が備われば、もっとブータンらしい発展ができるように思います。
今回の旅を終えて、「科学的な知識」が豊富でなくても「科学的な考え方」はできると改めて感じました。考え方や好奇心といった、国や地域に関わらず活用できる力を育てて子どもたちの可能性を拡げる―。GEMSが世界に貢献できることはまだまだありそうです。
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