知っているけど行動に移さない
ワークショップの実施者は一方的に環境についての講義をし、生徒はそれを暗記する。
「汚染物質が海に流れることを海洋汚染といいます。いいですか? 海洋汚染ですよ! 海洋汚染! 海洋汚染! 海洋汚染! はい唱和して!」
これは配属先で実際に行われていたワークショップのひとコマである。全部で1時間ほどの内容は、主に実施者による一方的な講義とパワーポイントの視聴。そのような中で、環境教育の「教育」という部分がおろそかにされていると強く感じた。実感の伴わない知識ばかりの教育。私は「教える」一辺倒の環境教育から、「学ぶ」環境教育へ変わる必要性を説いた。生徒たちが自分の頭で考え、実践について模索するワークショップの提案である。
講義主体のワークショップ+αの教材活用
ただ、知識優先という現状には配属先なりのこだわりがあった。エジプトで「教育」といえば、講義・暗記が連想される。これは、統一試験次第で子どもの人生が大きく決められてしまうという、点数至上主義の影響であると考えられる。
よし、わかった。彼らにとって知識が重要ならば、それはそれで大切にしよう。でもそのかわり、そこに手作りの教材を介在させることで、もっとわかりやすく、楽しく、参加者が主体的に関われる仕掛けを作るのはどうだろう。「子どもたちの発言を促すためのツールとしての教材」この発想は配属先にとって受け入れやすかったらしく、ワークショップの合間をぬっての教材づくりが始まる。アイディアを出し合うなどして作った教材の数は30個ほど。ワークショップにおける生徒たちの発言も増え、配属先の評判も良かった。
教材利用への当事者意識
「あなたはアラビア語が喋れないから教材に頼っている。私たちはアラビア語が喋れるから講義をしている。」
配属先のパートナーにこう言われたことがある。あながち間違いではないが、これでは教材利用の意図が伝わっていない。それに私の帰国後に教材が活用されることもないだろうと感じた。
ワークショップでの教材利用を、もっと自分ごととして考えてもらうにはどうしたらいいか。それ以降、なるべく配属先パートナー主体でワークショップが進められるよう、私が裏方になることを心がけた。
ワークショップの前は、あらかじめ「参加者の年齢・人数・予定している講義内容」をパートナーに尋ねる。「その年齢、人数、内容なら、この教材がちょうどいいだろう。」あくまで彼ら主体で内容を決めてもらい、そのおまけとしての教材利用だ。
いくつかある教材の中からどの教材を選ぶか。それによって教材の意図やねらいを彼らが意識できるよう努めた。ワークショップの最中もなるべく発言は控える。私は情報番組のアシスタントのように、然るべきタイミングで教材をパートナーに手渡すのみ。
また、パートナーが教材についてねらいと異なる使い方をしていても、ただ私の発想とは異なった切り口なのだとして、敢えて見守ることにした。その講義内容によっては、伝わりやすさなどを考慮して数パターンの試作を提案し新たに教材を作る。すこしずつカスタマイズすることで、生徒の反応がどう変わるか実感してもらうことを大切にした。
講義だけより子どもたちの反応が良いこともあり、パートナーも以前より活き活きとワークショップに臨むようになった。
帰国後、配属先のフェイスブックページに、私の作った教材を活用している様子がアップされていた。迷わず、ポチッといいねしたことは言うまでもない。なお、教材のデータや使用法はインターネットで閲覧できるので活用してくださったら嬉しいです。
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