文:石田 敦史(パルシステム生活協同組合連合会)
単なる「産地直送」ではありません
パルシステムは「心豊かなくらしと共生の社会を創ります」を理念に掲げる生活協同組合(生協)のグループです。首都圏を中心とした12都県を活動エリアとし、あわせて約155万世帯が組合員として加入しています。
組合員には、30歳代から50歳代にかけた子育て中の女性が多く、週に1回、定期的に組合員宅に商品が届く宅配事業をはじめ、共済や福祉など各種サービスを提供しています。
配達する商品は、8割を食品が占めます。中心は米や青果、精肉、鶏卵、牛乳、水産物などの産直品です。
この産直は、単純に生産された産物の中間流通を省いて消費者へ届けるだけの、いわゆる「産地直送」ではありません。食の安全性確保にとどまらず、環境保全、資源循環の地域づくりを、多様な生産者とともに取り組んでいます。
生産者と消費者が話し合いで解決
たとえば、ある農薬の使用は、食品そのものの安全性はもちろん、実際に農薬を散布する生産者の健康や、農地に生息する生き物および周辺地域の生物多様性にまで影響を与えるとします。
こうした問題に直面したとき、パルシステムは農薬の使用をやめるようなルールを一方的に押し付けるのではなく、消費者と生産者が同じ「生活者」として話し合い、実行可能で相互が納得できる解決策を検討します。そして生産された商品を組合員が購入し、生産者へ還元していくのです。その循環を広げようというのが、産直の基本的な考え方です。
このように生産者と消費者がともに理解し、生産された商品を利用するというサイクルで問題解決につなげる取り組みを、パルシステムは数十年来、一貫して続けてきました。一人ひとりの消費で生産者を応援することを呼びかける「『選ぶで変わる』ほんもの実感! くらしづくりアクション」(以下「ほんもの実感」)も、産直に根付く価値観から生まれたものです。
「ほんもの実感」は2014年にスタートしました。青果や畜産品などの産直品はもちろん、プライベートブランド商品や産直原料の加工商品、組合員による開発協力商品など千3百商品あまりを対象とし、それぞれの商品が持つ「物語」や「価値」を積極的に発信しています。
情報発信の場としては、カタログやウェブサイトはもちろん、産地の生産者やメーカー担当者と、組合員が交流する機会を多く提供しています。産地を訪れる企画は毎年1万7千人、学習会を含めるとおよそ3万人が参加しています。その結果、商品の利用は着実に増えています。産地やメーカーへは「ファンになりました」とのメッセージが数多く届いています。
アワードを受賞したのは一人ひとりの組合員
こうした「協同」の具現化を象徴する「ほんもの実感」が2017年12月、政府の「ジャパンSDGsアワード」で副本部長(内閣官房長官)賞を受賞しました。受賞理由には「ただ消費するのではなく環境や社会への影響、生産者の思いなどを理解し、食べ残しを減らす等の具体的行動を呼びかけた」とあります。つまり、これまで積み重ねてきた組合員1人ひとりが受賞したのです。
日本国内に限らず、世界では経済格差とそれによる貧困層の拡大が問題となっています。現状のグローバル経済の進展と多国籍企業の独占が続けば、状況の悪化は避けられそうにありません。国連がSDGsを定めたのも、こうした社会的背景があるからです。
パルシステムは、SDGsが掲げる「『誰一人取り残さない』世界の実現」に強く賛同し、商品の開発や供給だけにとどまらず、福祉事業や地域活動支援、助成金・奨学金制度の整備などにも注力していく方針です。誰もが共存し、いきいきとくらせる社会を実現できるよう、今後も活動を続けていきます。
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