文:植田 睦之(認定NPO法人バードリサーチ) 写真上:桑森亮(撮影)
川面には川霧がたっている。気温はマイナス6.8度。北風がさらに体感温度を低くする。寒い。それでも、ダウンジャケットで完全装備しているので、まだまだ凍えるほどではない。しかし問題なのは日に日に凍結が進む川面と深くなってきた積雪だ。そろそろ南に移動すべきだろうか…。
鳥たちがこんなことを考えているかどうかは知りませんが、厳寒期は鳥たちにとって最も厳しい季節です。
特に水鳥や地上で採食する鳥たちにとっては。水面の凍結は安全な休息場所や採食場所の消失につながります。また、積雪が深くなると小型の鳥は食物を得るのが難しくなってしまいます。
そのため、こうした鳥たちは雪や凍結を避けて、より南の地域で越冬しています。そんな鳥たちの分布が最近北上していることが、昨年からスタートした「全国鳥類越冬分布調査」でわかってきました。
誰でも参加できるよ!全国鳥類越冬分布調査
これまで日本で普通に越冬していた、カシラダカという小鳥がIUCNのレッドリストに指定され、冬鳥の状況を明らかにすることが必要になってきました。また、気候変動の鳥への影響を明らかにすることも目的として、バードリサーチなどのNGOが中心となって、2016年から全国鳥類越冬分布調査がスタートしました。
2020年の完成を目指して、参加型のボランティア調査形式で、日本全国の鳥の越冬状況の情報収集をしています。
1988年に環境省が同様の調査を実施していて、それと比較することで、鳥たちの変化が見えつつあります。
越冬分布が、北上する鳥たち
これまでの調査から、越冬分布の北上している鳥がいることが見えてきました。その1つがアカハラです。
アカハラ(写真左)は夏にはブナ林など、やや標高の高い樹林で繁殖し、冬には低地に降りてきて越冬するツグミの仲間です。地上で落ち葉の下に潜む虫などを食べるので、積雪が深いと越冬できません。そのため、1980年代は太平洋側や西日本で越冬していました。それが近年では富山や新潟など日本海側でも越冬するようになっていることがわかりました。
水鳥のオオバン(写真右)の分布も北上していました。1980年代は新潟や宮城以南で越冬していたのが、秋田や青森、北海道でも越冬するようになっていました。ガンの仲間でも同様の北上が見られています。
いずれも温暖化による積雪の減少や寒さの緩和が分布北上の原因ではないかと思われます。
気候変動が与える鳥の繁殖への影響
こうした越冬期の様子を見ていると温暖化は鳥たちにとって良いことのように思えてしまいます。そういう一面もありますが、それだけではないのです。
温度の変化で数が減少
たとえばイギリスのミツユビカモメなど海水温の変化による食物の減少で数を減らしている海鳥がいます。また、ライチョウなどそもそも高山に生息する鳥は、気温が上昇すると、それ以上高い場所がないので棲める場所がなくて絶滅してしまう可能性が危惧されています。
現在、20年ぶりに行なわれている「全国鳥類繁殖分布調査」の結果でも、標高の高い場所に生息する鳥たちが減少傾向にあり、そのようなことが日本でも起き始めていることが心配されます。
繁殖期がずれてしまい減少
気候変動により、繁殖に適した時期が前にずれてしまったことも問題になっています。ヨーロッパのマダラヒタキという小鳥は夏にヨーロッパに渡ってきて繁殖する夏鳥ですが、昆虫発生のピークが前にずれてしまったため、渡ってきたときにはそのピークがすぎてしまい、個体数を減らしている地域があることが明らかになっています。
日本でも環境省のモニタリングサイト10000の調査で、留鳥は気候変動にあわせて繁殖時期を調整できるけれども、夏鳥はそれが難しい可能性が見えてきています。
気候変動の生物・生態系への影響は、なかなか短期的に知ることは難しいですが、今後も情報を蓄積させつつ、その影響を明らかにしていきたいと考えています。
ぜひ「地球のこども」の読者の皆さんも、身近な鳥たちの姿や鳴き声に興味を惹かれたら、何かちょっと変化したことがないのかなど、その姿に目を見張ったり、鳴き声に耳を傾けてくださいね。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。