機関誌「地球のこども」 Child of the earth

自分で考え判断できる力とは 2019.02.01

文:佐々木 豊志(一般社団法人くりこま高原自然学校

今回のテーマを聞いて、私は、宮沢賢治の作品「風の又三郎」の話を思い浮かべました。

この童話の個人的な解釈ですが、子どもたちの心象風景を現実と幻想の交錯の中で描き「自分で考え、自分で判断して、行動する」という子どもたちの内面を見ることができます。

風の又三郎に見る子どもの内面

童話では、転校してきた風の又三郎は、村の子どもたちと様々な体験をします。又三郎の知らないがゆえにやってしまう行動が、村の子どもにとっては不思議な行動に見えます。村の子どもたちは又三郎の刺激的行動を感じる日々が過ぎ、再び又三郎は転校して行きます。

村の子どもたちと又三郎の関係が、私には一人の子どもの心の中に存在する両者であると感じています。子どもは好奇心に富み、ときには危険を顧みず、あるいは危険を十分に認知しないままに行動をします。時に思わぬ怪我をし、痛い目にも遭遇します。そして、さまざまな体験を重ねることで、目の前の現実を内面的に受け止め考え始めます。

「自分で考え、判断する力とは」まさに、村の子どもたちが又三郎と対峙して気がつき始めたことのように思うのです。

「野性」に欠ける子どもたち

私は1996年にくりこま高原自然学校を開校し、不登校・ひきこもり・ニートを受け入れる寄宿制度を併設して自立の支援に取り組んできました。寄宿生たちの多くは、「自分で考えず、判断できず、覇気がなく、関係性を築くのが苦手、主体的でない、意志が弱い、本気度が弱い」いわゆる「野性」に欠ける状態でした。

人が人間として備えなければならないと考えられる能力として、「知性」「理性」「悟性」「感性」などがありますが、彼らには「野性」が十分ではなかったのです。それぞれの定義を調べてみると次の通りになります。

「知性」「理性」「悟性」「感性」の定義

知性

物事を考え、理解し、判断する能力。人間の知的能力。

理性

感情におぼれずに、筋道を立てて物事を考え判断する能力。

悟性

広義には、論理的な思考を行う能力・知力をさしていう語。知性。

感性

物事に感じる能力。感受性。感覚。「豊かな感性を育てる」

(三省堂・大辞林)

「自分で考え、判断できる力」どうやって育むのか?

「自分で考え、判断できる力」は、これらの「知性」「理性」「悟性」「感性」にあり、どのようにその自立を育むのかという命題になります。

前述した「風の又三郎」で、「自分で考え、判断できる力」が「村の子どもたち」の部分であるとするのであれば、それを育むためには、それがコントラストを持って意識でき、対峙できる〝風の又三郎〟の存在が大切になるのだろうと私は考えています。風の又三郎の存在が「野性」であると捉えているのです。ということは、「自分で考え、判断できる力」は、「野性」があって初めて見えてくるものだという結論に達しています。

「野性」の定義は、大辞林によれば、「自然のままの性質、生まれたままの本能むき出しの荒っぽい性質。教育などによって変えられていない、本能のままの性質」とあります。さらに、町田宗鳳は、『「野性」の哲学-生きぬく力を取り戻す(2001)(P176)』の中で「≲逆境≳が野性を育む、順境なら通俗的見解や常識的発想力しかもたない人間でも大過なくやり過ごせる。しかし、逆境となれば、必死で考え、体を張って行動していかないと生き残れない。」と指摘しています。

誰もが生まれ持ってきている「野性」が、寄宿生のようにその後の教育で蓋をされれば、「教育では育まれない」という〝野性〟と同じように本来の「知性」「理性」「悟性」も育まれないと思います。

「野性」なくして、「知性」「理性」「悟性」…「自分で考え、判断できる力」は育まれないのです。

 

佐々木 豊志(ささき とよし)

1957年岩手県生まれ、61歳。野外教育・冒険教育を学び、1996年私費を投じて「くりこま高原自然学校」を開校。不登校・ひきこもり・ニートの自立支援、SDGsを意識し自然環境と共生する持続可能な社会を創造する人づくりに取り組む。2017年4月から青森大学総合経営学部教授。

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