文:坂本 和弘(多摩動物公園) 写真提供:公益財団法人東京動物園協会
様々な生きものに会うことができる身近な施設、動物園・水族館。今、生きものの展示だけではなく多様な役割を担っている各地の園館の取り組みとこれからについて、多摩動物公園の坂本さんに解説していただきました。
「動物園・水族館」って?
日本では動物園水族館を定義し所管する法律はなく、誰でも「動物園」を名乗ることができます。公益社団法人日本動物園水族館協会は、申請した園館を展示や教育、動物の福祉などいくつかの視点で審査し、それをクリアした園館が加盟できる組織です。
2018年7月現在で、91の動物園、60の水族館が加盟しており、日本は国土の広さの割に動物園水族館が多い国と言えます。
生きている動物や水族を扱う博物館としての一面
規模や設置者も多様な各園館は、それぞれ様々な動物たちを飼育展示し、その個体、種、そしてその生物をはぐくむ生態系や自然環境など、様々なことを伝える解説活動などを行っています。
多くの園館は博物館相当施設としても登録されており、動物園水族館は生きている動物や水族を扱う博物館としての一面も有しています。
飼育展示している生き物の魅力や素晴らしさを伝える多様なインタープリテーション活動を、飼育係員、専任の解説員やボランティアなどいろいろな人たちが行っています。また飼育動物だけでなく、富山市ファミリーパークのように園館の周囲に広がる豊かな自然環境を活用したプログラムを実施しているところもあります。
NGOや自然学校と連携つながる・ひろがる活動
生きている実物を見せて気づきを与える動物園水族館は、市民や学校をはじめ、様々なNPOなどの団体ともつながり、活動の幅を広げているところもあります。
例えば、今年度東京・上野で開催された第66回全国博物館大会では「博物館における環境教育」がその分科会の一つとして設置され、情報交流の場となりました。
そこでは、都立動物園が行うイモリの保全活動に地元の小学校が環境教育のプログラムとして連携し、一緒に調査などを行いながら学ぶ事例を紹介しました。
また、多摩動物公園ではここ数年、東京都埋蔵文化財センターや(公財)日本自然保護協会との協働で、動物園だけではできない考古的・文化的なプログラムも実施しました。
フィールドに誘う「窓」とこれからの動物園水族館
魅力的な生きものを飼育展示し繁殖した子どもも見せることができる園館には、幼い子どもから高齢者まで様々な人たちが訪れ、博物館と比較しても気軽に行きやすい「間口が広く敷居が低い」施設だと思います。お目当ての動物や個体を見るために何度も訪れるリピーターも多くいます。
しかし、生き物に対する興味が園館で完結するのではなく、身近なところでもよいので本当の自然(フィールド)に誘う活動も大切だと考え、自然に興味を持つ入り口や窓となることもめざしています。
現地に詳しい方の協力を得て、野生動物の観察会や磯や干潟の観察会などを実施することもあります。
様々な役割を持つ動物園水族館ですが、貴重な生物を飼育し繁殖させる技術を有しており、それを活用し、コウノトリやトキをはじめいろいろな生物の保全活動も展開しています。
そしてその取り組みを伝え、これらの生物が継続的に生息できる環境の重要性も伝えています。
また、動物園水族館があることで、生きものに興味を持つ人が訪れ、そして研究者や行政関係者、ボランティアやNPO等も交流し、自然を大切に思う人たちが集う「知的コミュニティの場」としても機能できると思っています。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。