機関誌「地球のこども」 Child of the earth

動物たちと私たちがともに歩む未来 〜よこはま動物園ズーラシアが目指す環境教育〜 2019.04.19

文:川口 芳矢(よこはま動物園ズーラシア

1999年4月に開園し、年間約100万人の来園者が訪れるズーラシアは、今年で開園20周年を迎えます。動物園の役割はレクリエーションだけではないと語る飼育員の川口さんに、ズーラシアが目指す環境教育についてうかがいました。

世界一周の動物旅行へ!

ジャングルに迷い込んだかのような生い茂る木々の間から姿を現すインドゾウ。ここは、横浜市旭区にある「よこはま動物園ズーラシア」。オカピを始め地球上で絶滅の危機にある希少動物が、世界の気候帯別(アジアの熱帯林、亜寒帯の森など)に生息地の環境を再現した「生息環境展示」で展示されています。

本来動物園は、レクリエーションだけでなく、「種の保存」「調査研究」「環境教育」といった役割も担っています。当園では展示手法を活かし、飼育担当が動物の生態や個体の特徴、生息地の状況や私たちとの関わりなどを解説する「飼育員のとっておきタイム」。

クイズや工作、ゲームなどを通して動物について詳しく知る「ズーラシアどうぶつ教室」など、家族連れから大人まで楽しみながら学べるプログラムを用意しています。さらに、一歩踏み込んだ学習を希望される方を対象にした企画も実施しています。

未来へのバトンパス

小学校4~6年生を対象にした「ズーラシアスクール(※1)」は、野生動物や自然環境の多様な状況を知ることで、自分と環境との関わりを考える総合力を次世代へつなぐことを目的としています。

毎回一つの気候帯とそこを代表する動物種を題材に、「ホッキョクグマと地球温暖化」や「オランウータンとパーム油」「日本の絶滅危惧種」などについて動物観察やゲーム、意見交換による議論や発表などを行います。これらを通してESD(持続可能な開発のための教育)の視点を取り入れた学びの場を提供しています。

※1ズーラシアスクール

事前に募集した30名が9月~翌年3月まで毎月1回ずつ計7回動物園に集まって実施する学校形式のプログラム

ゲームを通してオランウータンと森の関係を学ぶ

卒業生の発表を見に来ませんか?

最終回の卒業式では、保護者や来園者の前で、卒業生一人ひとりが「ズーラシアスクールで学んだ私からみんなに伝えたいこと」について、園内のステージ上で発表します。
3月16日(土)に2018年度のズーラシアスクール卒業式を予定しています。卒業生たちの発表にご興味のある方は、ぜひお越しください(要入園料)。

今、私たちができることを

2018年は、大人のための参加型企画「あなたと一緒に考える、チンパンジーの森の未来」を実施しました。この企画は森のきこりや村の女性、チンパンジーの研究者や密猟者など、チンパンジーの森に関わる様々な立場の人々の意見を読みながら、チンパンジーを観察するものです。

参加者が考える「チンパンジーを絶滅から守るために、最初に解決すべき課題」について投票をしていただきました。

森に関わる人々の意見を知る前には、約4割の参加者が「生息地の確保」を最優先課題としていました。しかし、人々の意見から森の現状を知った後では「雇用の確保」や「人々への教育」などの投票数が増え、さまざまな課題が複雑に絡み合っていることを理解できたようです。

また、チンパンジーが生息するアフリカの森と、日本で暮らす私たちとの関わりを示す「チンパンジーの森とSDGs(持続可能な開発目標)」というパネルを設置して、参加者が自らの生活を振り返る機会としました(詳細は ズーラシアのブログ 「あなたと一緒に考える、チンパンジーの森の未来」)。
今後も、動物たちと私たちがともに歩む未来に向けて、様々な視点から多角的に野生動物や自然環境について考えることができるようなプログラムを実施していきます。

川口 芳矢(よこはま動物園ズーラシア

1999年の開園時からよこはま動物園の飼育員として勤務。2007年動物園を休職し青年海外協力隊員としてウガンダ共和国へ赴任し、野生のチンパンジーが生息する森でエコツーリズムの導入を支援した。帰国復職後、飼育業務と並行して野生動物と現地の人々、日本の人々とをつなぐプログラムを企画・実施している。

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