機関誌「地球のこども」 Child of the earth

大学におけるSDGsに向けた変容的学習〜砂漠でサスティナビリティを学ぶスタディツアー〜 2019.12.20

文:永田 佳之(聖心女子大学)

持続可能な社会に向けた高等教育のチャレンジ

ユネスコをはじめとした国際機関が「国連ESDの10年」及び本年までのグローバル・アクション・プログラム(GAP)で求めてきたのは、持続可能な未来に向けた価値観・行動・ライフスタイルの変容でした。

にもかかわらず、大学での教育は各地の環境破壊について伝えたり、気候変動のメカニズムは教えたりしていても、若者の価値観や行動を変容させるまでに至っていないのではないか…。このような問いを抱きつつ毎年、海外スタディツアーを実施して12年になります。その間、SDGsが世界の共通目標となり、上記の変容はますます喫緊の課題となっているように思われます。

聖心女子大学では、教育学科が開講する「発展途上国における教育問題1」で途上国の教育問題の現実を表すデータや問題の事例を扱った後に、実際に途上国でその実際を体験し、報告書やビデオに成果をまとめるという一連の学習を展開しています。

ここ数年は、SDGsをテーマにツアーを組み、自己変容を促し、社会変容へとつながるシームレスな学びとなるよう工夫しフォローアップをしています。毎年、SDGsの幾つかのゴールを意識しつつ渡航先を決めますが、今年の滞在先として選んだのはアフリカ南部のナミビア共和国でした。

NaDEETで研修を受ける日本の若者たち

砂漠でサスティナビリティを考える

なぜナミビアかというと、昨年のユネスコ/日本ESD賞の受賞団体であるNaDEET(ナディート)が、ナミブランド自然保護区で持続可能な社会に向けた自己変容のための活動を展開しており、〈究極のサスティナビリティ〉について体験的に学べる条件が整っているからです。

NaDEETのアプローチは至ってシンプル。全国各地から集まる学生や先生が、砂漠に近いサバンナ地帯に建てられた環境センターで4日間ほど暮らします。使用するエネルギーと水、排出するゴミを自ら計測し、地球に与えるインパクトを仲間と問い直すプログラムを通して、持続可能な社会の創り手を育成しているのです。

地上から65メートル下を流れる地下水を汲み取り、太陽光パネルでお湯も常時取れるようにしています。シャワーはバケツに水を汲んで天井から吊るした「バケツ・シャワー」の取っ手をひねって、必要なだけ水を出す方法で、温かいシャワーも浴びることができます。電気は全て太陽光パネル。料理はソーラー・クッキングです。ゴミも分別し、紙類は水と木屑を合わせてファイアー・ボールと呼ばれる燃料を作って料理の時に使用します。

ソーラークッキングの説明を受ける参加者

自信を得た学生たち

これまでNaDEETは1万4千人以上の子どもや教師を始めとした成人に、滞在型のプログラムを提供し続けてきました。研修を受けた地元の先生が「全く新しい世界につかることができた。そこではいかなる些細なことでも大きな意義を見出せた。」と述べているように、これまで多くの参加者に価値変容をもたらした実践例です。

このことは日本の学生にも該当します。私たちの滞在時に暮らした17人が、一人につき1日で使用した水は35〜38.6リットルであり、電気は2.7〜3.4キロワットでした。単純な比較はできませんが、日本人1人当たりの使用する生活用水と電力消費量と比べると、水も電気も15%程で暮らせたことになります。しかも当地の暮らしは実に快適でした。

当初は利便性とはかけ離れた生活様式に戸惑っていた学生達も、瞬く間に居心地の良さを実感するようになり、本当に大切な価値について捉え直し、やればできるという自信に満ちて帰国しました。これから東京での生活にどう挑むか、一人ひとりのさらなる変容が楽しみです。

砂漠の生物多様性を調査するための打ち合わせ

永田 佳之(ながた よしゆき)

聖心女子大学教授(教育学博士)。ユネスコ/日本ESD賞国際審査委員の他、アジア学院評議員、開発教育協会評議員、フリースペースたまりば理事、聖心女子大学グローバル共生研究所副所長など。『気候変動の時代を生きる』(山川出版社、編著)『新たな時代のESD:サスティナブルな学校を創ろう』(明石書店、共著)など著書多数。

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