文:中石 和良(一般社団法人日本ビオホテル協会 )
持続不可能な地球
2050年には、世界の人口は96億人(現在76億人なので、わずか30年で1.3倍に増加)に、年間に廃棄されるゴミは34億トン(現在20億トン、1.7倍)に急増しするといわれています。資源枯渇、気候変動、生物多様性消失、食料・水危機、土壌劣化、海洋汚染、森林喪失、大気汚染、化学物質汚染など、このままでは持続不可能な地球に。
そして、2100年には人類が存在しているのか? という、ディストピア(※1)シナリオが見えます。
このシナリオを書き換えようとするのが、2030アジェンダ(以下、SDGs)及びパリ協定(※2)です。SDGsは、持続可能な消費と生産の実施、環境影響と経済成長のデカップリング(※3)、資源効率性の改善を通じた、現状改善のための枠組みを提供しています。そして、SDGsの中で改善を名指しされているのが、観光・ツーリズム産業です。
(※1)ディストピア
理想郷をさすユートピアの反対語。暗黒郷。
(※2)パリ協定
2015年にパリで開催さたCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)にて採択された「気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定」
(※3)環境影響と経済成長のデカップリング
一定の経済成長や便利さを維持しつつ、環境に与える悪影響を減らしていく(切り離す)こと。
持続可能な消費と生産を体験できるホテル
ドイツバイエルン地方・オーストリアチロル地方を発祥とするBIO HOTEL(ビオホテル)は、2001年にビオホテル協会(Die BIO HOTELS)が設立されて以来20年に渡り、世界のホテルにおけるサステナビリティ追求のリーダーシップを担っています。
ドイツ、オーストリアを中心にヨーロッパ7カ国に、現在約100施設が稼働しています。美味しいオーガニックの食事と心地よい空間で、サステナブルなホスピタリティーを提供します。
ビオホテル協会に属することができる(BIO HOTEL認定のホテル)ためには、最低限の以下の3つの基準をクリアする必要があります。
ビオホテル協会に属するための3つの条件
- ホテルで提供する食材・飲み物は全てオーガニック(BIO)認証のもの
- ホテルの部屋、スパエリアで提供するコスメは全てオーガニック(BIO)認証のもの
- ホテル施設のエネルギーは全て再生可能エネルギーであること、施設運営に関わるCO2排出量を年間5%以上削減すること(近隣の一般ホテルに比べCO2排出料が1/7以下)、ホテルで使用する紙は全て再生紙またはFSC認証紙であること
さらに、SDGsの観光業版であるSTDI(Sustainable Tourism Development Index)を設定し、その達成度合いを公表されます。また、ホテルの建築・改装の際には、建物の環境負荷や内装材の安全性の基準があらたに適用されます。
日本におけるビオホテルの展開
現在、日本には、3つのビオホテルが稼働しています。
一般社団法人日本ビオホテル協会(BIO HOTELS JAPAN)が設定する基準に基づいた認定を取得しています。先ほどヨーロッパのビオホテル基準を紹介しましたが、日本ではヨーロッパと同じ基準では施設が運営できないため、日本向けにローカライズした基準となっています。食べ物・飲み物・コスメに関しては、オーガニック認証の食品・製品が手に入りづらく高価であること、また海外製品が大半であることから、オーガニック認証相当の独自ガイドラインを設定し、ガイドラインに適合することを基準としています。次の3施設です。
- カミツレの宿 八寿恵荘(長野県北安曇郡)
- おとぎの宿 米屋(福島県須賀川市)
- Auberge erba stella (北海道中富良野)
カミツレの宿 八寿恵荘(長野県北安曇郡)
建物の木材は地元の無垢材使用、木材以外も自然素材を使用、寝具一式オーガニックコットン使用、お風呂の給湯と温水床暖房には木質チップボイラーを用いてCO2削減に取り組んでいます。
所在地:長野県北安曇郡池田町広津4098
おとぎの宿 米屋
所在地:福島県須賀川市岩渕字笠木168-2
Auberge erba stella
所在地:北海道空知郡中富良野鹿討農場
また、ヨーロッパにはない、日本ビオホテル協会の独自認定施設として住宅と美容室があります。
- アトリエデフ 循環の家(本社:長野県上田市)
- 美容室THE ORIENTAL JOURNEY(千葉県柏市)
日本ビオホテル協会の独自認定施設
宿泊施設の認定基準をベースに、それぞれに新たな基準を設定しています。こちらの空間では、宿泊施設ではできないライフスタイル体験を提供しています。
持続可能で将来世代が豊かに安心して暮らせる地球を引き継ぐことが、現世代の責任です。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。