機関誌「地球のこども」 Child of the earth

地域資源の使い方から 豊かな暮らしのタネを学ぶ 2020.04.17

文:佐藤 布武(もものうらビレッジ

もものうらビレッジ」は、2017年に宮城県石巻市牡鹿半島・桃浦地区にオープンした宿泊・体験施設です。牡蠣養殖が盛んで自然豊かなこの地域には147名が暮らしていましたが、東日本大震災で大きな被害を受け、人口は19名まで減少しました。

多様な人が出会う桃源郷

震災後、桃浦では地域住民と筑波大学が連携して浜の未来を検討する「桃浦浜づくり実行委員会」が設立され、「住む」だけではない、様々な地域との関わり方が模索されてきました。
例えば、繰り返し地域を訪れてくれる桃浦ファン、地域住民と一緒に地域の取り組みをする人、土地を借りて畑を耕す人などです。

そういう関係性の先に「住む」という選択肢が現れてくると願い、実行委員会は2013年から「浜の学校|牡鹿漁師学校」という取り組みを継続してきましたが、核となる施設がない難しさを感じていました。その折、石巻を拠点とした芸術祭「Reborn-Art Festival」の準備を進めていたAPバンクと桃浦浜づくり実行委員会が出会いました。

牡鹿半島の豊かな自然環境の魅力や未来への可能性を繰り返し議論し、様々な人々と関わりを持つ拠点施設として整備されたのが「もものうらビレッジ(ももビレ)」です。

 

ももビレでは、美しい海と緑豊かな山という、桃浦の自然豊かな環境に焦点をあてています。

そもそも桃浦という集落名は、桃源郷のような美しい地域であったことに由来すると言われています。地域の老人たちに昔の話を聞くと、山や海で楽しく遊んでいた様子を生き生きと語られ、暮らしと自然が密接に関係してきたことがよくわかります。

地域の人も外の人も一緒に里山を守る

我々は、そんな自然との関わり方を「暮らしの知恵」として捉え、自然と関わる技術を多くの人とシェアしたいと思い、ももビレの運営をしています。

魚のさばき方や山の木の切り方、粘土の作り方や竹かごの編み方など、地域資源の使い方を地元住民や専門家から学ぶワークショップ「Reborn-Art School(RAS)」を毎月開催しています。

同時に、里山を舞台に暮らしの技術を学ぶこのRASを通して、荒廃しつつある里山を再生することを目指しています。
山を間伐して綺麗にしたり、間伐材で小屋を作ったり、美味しいピザを焼けるアースオーブンを作ったりしてきました。地域外の人が楽しみながら集落に携わることで、人手が減り管理が行き届かない自然環境の維持をできないかと考えています。

また、眼前に広がる広大な海からは一年を通して美味しい魚や貝が獲られ、シャコエビやアナゴ、カキにナマコといった春夏秋冬の味覚も楽しめます。

 

事前に予約すれば、桃浦に魅せられ移住して漁師になったももビレ管理人の船に乗り、漁に出ることもできます。ももビレにある大きなオープンキッチンで新鮮な食材を仲間と料理するのも楽しいですし、海が見えるバーベキューテラスやピザ釜は、素材の力を最大限に引き出してくれます。

 

 

暮らしの技術を通して春夏秋冬地域資源を楽しむ

ももビレの使い方は人それぞれです。一人で訪れる場合もあれば、仲間と訪れて自然を楽しむこともできます。自然を舞台とした月に1回のワークショップのみならず、高校・大学などの団体向けの研修も開催してきました。訪れた人々は、自然に出会い、美味しいものに舌鼓を打ちながら、自然との関わり方を教わります。

教わった自然との関わり方を使ってみんなで里山を復活させていく過程では、似た興味を持った仲間と出会うことができます。実際、ももビレで出会った人々が「もものわ」というチームを組み、土地を借り畑を営み、山を借り自伐林業を行っています。一人でできないこともみんなでなら挑戦できます。

生活利便性が向上している現代だからこそ、暮らしの技術を学ぶことで考えされられることがあります。春夏秋冬、地元の海の素材に舌鼓を打ち、海から山までの地域資源で遊ぶ。そんな五感を刺激する「もものうらビレッジ」に、ぜひ一度訪れてみてください。

佐藤 布武(さとう のぶたけ))

名城大学建築学科・助教。2011年より継続して石巻市を訪れる。2017年にもものうらビレッジを企画した際の発起人の一人。その後も、もものうらビレッジの運営者として特にイベント企画・運営を担当している。

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