文:吉垣 和也、志保(吉垣花園)
農薬や肥料を使わない自然栽培や有機栽培の野菜が増えているとはいえ、花の栽培においては除草剤も殺虫剤も使用するのがまだまだ主流。そんな中、川崎で80年以上続く花農家・吉垣花園は、先代から引き継いだ伝統を守りつつ、5年前から無農薬・無化学肥料栽培を中心に花を生産しています。
きっかけは子育て。子どもを育てる中で、「手元のバトンを子どもたちの世代に今より良くして渡したい」と、地球や農園に対する価値観が自然と変わっていきました。土へ与える負担を減らし、子どもたちへ健全な大地を残そうという想いが夫婦で重なり、無農薬の花作りを決断したのです。
努力がゆっくり花開く
そして、勉強とチャレンジの日々がスタートしました。日本でオーガニックフラワーを生産している事例が少なかったため、自然栽培の野菜農家を参考にしたり、研修に参加したり、自分で試行錯誤するしかありません。花の収穫がゼロだったことも、家計がピンチになったこともあり苦難の連続でしたが、家族で力を合わせて乗り越えてきました。
5年目を迎えた今、里山の地形をそのまま生かした約5,000坪の畑には、茎が強く葉もしっかりした野趣と生命力あふれる花々が育っています。桜や桃などの木の花、菊やコスモスなど草の花、アカシアやハーブなどの葉、これら100種類ほどを季節ごとに生産・出荷しています。同じ種類でも花の色が違ったり、似た仲間があったりするので、実際はもっと多くの品種が無農薬で育っています。
農薬や化学肥料を使わないと花の成長はゆっくりになりますが、その分たくましく育つ花が増えました。驚いたのは病気や虫害が減ったこと。生命力のある花は病気もなりにくく、虫もつきにくいのです。父が最初はオーガニックフラワーへの切り替えを反対していましたが、花が変化していく様子を見て、今では大賛成してくれています。何より地球に、花に、人に優しい花作りができていることが嬉しいです。
心が満たされる里山体験
もう一つ、同じく5年前にスタートしたことは、地域の人々に吉垣花園の農地を開放した農園コミュニティ「夕やけ山」です。「土のうえ×音楽」や「子ども×体験」など、農や自然と掛け合わせたイベントを企画、開催しています。その掛け合わせは無限でオリジナリティに富んでいます。
夕やけ山に遊びに来た子どもたちは、花や野菜、虫や鳥が息づく農園内の里山を駆け回って遊び、時には畑から野菜を収穫して、ごはんを一緒に作ります。まるで集まった人がみんな家族のようにありのままつながれる場所で、大人も子どもも元気になっていきます。
ウェブサイト:里山時間 夕やけ山
人と自然がつながる場所で
吉垣花園と夕やけ山の共通のポリシーは、「巡りを守る(育む)」ということ。豊かな自然の巡り(循環)には、人間の意図を遥かに超えた営みがあります。自然本来の巡りに手を加える必要性がどこまであるのかを、私たちは今一度、目の前の物事についてひと呼吸感じてから行動するゆとりが必要だと考えています。
また、人と人との間にも巡りは存在します。想いを託されることで自分が強くなれたり、親から子へと愛が受け継がれていったり。巡りは人と人、人と自然が共生するための大切なキーワードだと感じています。「自然」と「人」が織りなす里山で、これからも巡りを守り、育てていきます。
主な取り引き先:オーガニックフラワーショップわなびや(東京都豊島区)、ラッシュ新宿店、地球人倶楽部(神奈川県横浜市)等
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。