文:松島 義幸(MPSジャパン株式会社)
お花にも環境に配慮して作られたものがあるのを知っていますか?
危険な農薬を使わない、農薬や肥料、エネルギーを出来るだけ低減して作ったお花に与えられるMPS(※)というオランダ生まれの国際認証があります。MPSが誕生した1990年代、欧州では地球規模での環境配慮、消費者の安心安全確保という観点から、小売グループが農産物を生産する共通の基準を定め、EUREP GAP(現在のGLOBAL GAP)として広がっていました。
そうした中、世界の花の生産・流通の中心地オランダの生産者たちが、「環境に対する取り組みの要求」や「花き業界の社会的地位向上」のためにつくったMPSが世界レベルの花き認証制度として発展。欧米を中心に世界45カ国以上、約3,200団体が認証を取得しています(2018年時点)。
経験による農業からデータによる農業へ
MPSの最大の特徴は、花きの生産だけで完結せず、流通と一体となって業界全体での双方向的な取り組みが可能である点です。生産者向けの認証と流通向けの認証とがあり、生産から市場、仲卸、加工、流通とつながった花き産業全体を扱う総合的な認証システムとなっています。
MPSに参加する生産者は、農薬、肥料、重油、電力などを毎月1回記帳することによってデータが蓄積され、継続的に環境負荷を低減することができます。また他の参加者との比較ができることで、無駄を排除してコスト削減にもつながります。
例えば、環境負荷低減の中心となるMPS-ABCでは、生産者を地域の環境特性や作物の特性を考慮して環境分類(組分け)を行い、その組の中の順位で相対的に評価されます。農薬も単に使用量だけでなく、毒性、残留性、水や空気への移行性、温室内か野外か、付近に河川や水田があるかなど、場所的な要素も考慮してリスクが評価されます。つまり、同じ農薬を同じだけ使っても、生産者ごとに評価が異なるのです。
世界の動向MPSが取引条件にも
2013年、世界の花き生産・輸入・卸流通・小売・資材など25のステークホルダーが集合して、労働環境改善やIPM(総合的病害虫管理)、気候変動対策等に取り組む組織として国際NGO組織:FSI(Floriculture Sustainability Initiative)が設立されました。FSIは「2020年までに世界の花きの90%を社会・環境に責任ある形で生産流通させる」という目標のもと、国連SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献しています。
インターネットの普及により、世界の花き取引は実際に現地でモノを見ないで取引されることが増え、国際認証による安心・安全の担保が重要になってきています。欧米、特にヨーロッパでは小売側の取引条件としてMPSなどの国際認証が必須となっていますし、日本でもコープデリ(生協)の「ヴィ・ナチュール」では、魚のMSC認証、有機JAS認証などと共に花きはMPS認証の花が使われています。
次世代に向けて安心・安全の取り組み
高度成長期は生産サイドの環境汚染物質を削減して大気汚染や水質汚濁防止に努めてきましたが、現在行われている環境への取り組みは、地球規模でさらなる環境配慮をして、次世代への安心・安全を確保していこうというものです。
どんな贈り物よりも、花は私たちの気持ちをそのままに届けてくれます。そして、たった1本の花でも自然や環境そのものを象徴しながら誰かの手元に届くのです。だからこそ、花を作る過程で、環境に何ができるかを考えて取り組むことはとても大切ではないでしょうか。国際認証で担保される安心・安全の見える化は今後ますます広がっていくと思われます。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。