文:前田 剛(NPO法人日本オーガニックコットン協会)
この度の新型コロナウイルスにより、お亡くなりになられた方にお悔やみを申し上げるとともに、今もなお治療を続けている方々の一刻も早い回復を心よりお祈り申し上げます。また、世界中で新型コロナと闘っている医療従事者の皆さまの命をかけた日々の活動に、尊敬の念とともに、感謝の気持ちを捧げたいと思います。
「オーガニックコットン製品」はエシカルライフスタイルの代表
ここ最近、耳にする機会が増えてきた「エシカル消費」や「SDGs」、「サステイナブル」といった言葉。環境関連の団体や企業、環境意識の高い方だけでなく、一般企業や教育の現場まで、さまざまな分野で取り上げられることが多くなりました。
これらのキーワードととても大きな関連を持っているのが「オーガニックコットン」です。オーガニックコットンとは3年以上、化学合成された有害な農薬や肥料、殺虫剤などを使わない畑で栽培され、第三者認証機関によって厳しい審査を受けて認証されたコットンのことです。
オーガニックコットンは、エシカル素材の代名詞といわれるほど、環境や社会に貢献していて、関わる産業がSDGsの17ゴールの全てにコミットしていると言われるほど、環境、社会、経済に大きく寄与しています。
コットンは、野菜や果物と同様、畑でできる農作物です。通常のコットンには、農作業の効率化を図ったり、収穫量を増やすために、大量の化学農薬、殺虫剤などが使われるので、農場で働く人々やその家族の健康、周辺環境にとても大きな影響を及ぼしています。オーガニックコットンは有害な化学農薬や殺虫剤、化学肥料などを使わないで栽培するので、生産者にも環境にもやさしい素材と言えます。
栽培だけでなく製造工程まで考えているかどうかも重要
ただここで一つ、一般的に誤解されがちなポイントを皆さんに知っていただきたいと思います。それは、ここまでの話で出てきたオーガニックコットンとはあくまでも、繊維の原料となる農作物のコットンの話だという点です。
私たちが着たり使っている衣類やタオルなどのコットン製品は、原料のコットンを、糸にして、布にして、染めて、縫って、最終的な製品となりますが、実はこれらの加工過程でも多くの化学薬剤が使われていて、例え原料にオーガニックコットンを使っていても、こういった化学処理を施してしまうと、そこにはまた別の、環境負荷などの問題が浮上してくるのです。
また、日本では多くの人が「オーガニックコットンは肌にやさしい」というイメージを持っていると思いますが、それは栽培の時点でのコットンであって原料としてのものです。いくら有機栽培したオーガニックコットンであっても、加工する際にさまざま化学処理を施された製品では、本来の天然無垢な自然の風合い、柔らかさ、安心感は残っていないのが実状です。
製造工程の段階でも有害な化学薬剤を使わず作られた「オーガニックコットン製品」と、ただオーガニックコットンを原料として一般コットンと同様の化学処理を施した作られた「オーガニックコットンを使った製品」は、大きな違いがあるということを覚えておくことが重要なポイントです。
では、地球環境を考え、作る人から使う人、着る人のことを大切に思えるエシカルファッションや「自然を感じる服」を着たい、使いたいとき、どのような「オーガニックコットン製品」を選んだらよいの? と思われるかもしれません。それは、まず自分が何のためにそのオーガニックコットン製品を選んでいるのか、を考えるところからスタートです。
例えば、環境や生産者に優しく、使う自分も安心で心地よいものを使いたいと思うのなら、製造工程でも化学的な処理をしていなかったり、有害な化学薬剤を使用していないオーガニックコットン製品を選び、コットン栽培地域の環境や農業従事者を守りたいという思いなら、原料がオーガニックコットンでも、製造工程には特にこだわっていない製品を選ぶということも考え方の一つです。
今こそ見直したい、メイド・イン・ジャパンのものづくり
今回の新型コロナウイルス騒動では、海外からの輸入が大半だったマスクなどが不足し混乱を招いていましたが、多くの国内縫製工場が布マスクの製造に関わり、あらためて日本の縫製などの繊維産業が見直されることとなりました。私たちの生活に密着する衣類などの繊維製品を国内で生産することの大切さを目の当たりにしたわけです。
NPO法人日本オーガニックコットン協会では、「日本オーガニックコットン協会憲章」として下記5項目を掲げ、正しいオーガニックコットンや、オーガニックコットン製品の普及啓発を続けるとともに、国内産業を応援し日本製を推奨しています。
日本オーガニックコットン協会憲章
- 私達は、遺伝子組換をしない種を使用して、有機的な方法によって害虫や土壌を管理するオーガニックコットンの原綿を使います。
- 私達は、オーガニックコットン製品の生産・製造工程においても、環境や人体への負荷を抑え、児童労働および人道的搾取をしない方法を取ります。
- 私達は、メイド・イン・ジャパン にこだわり、日本の技術を使い、オーガニックコットンの良さを最大限に引き出すように努めます。
- 私達は、顔の見えるものづくりを徹底させ、トレーサビリティを確保し、安心・安全を提供します。
- 私達は、より多くの人たちにオーガニックコットンの良さをつたえ、普及啓発に努めます。
一人ひとりの日々の思考・選択・行動が地球の未来を変える
1年間で生まれる地球1個分の資源を1年のうちの何日目で使い果たしてしまうかを表す「アース・オーバーシュート・デー」。2020年は新型コロナの影響で産業などによる二酸化炭素の排出量が減ったことで多少延びて8月22日(235日目≒約3分の2)。ちなみに日本は5月12日(133日目)で、1年のうち3分の1をちょっと過ぎた頃で1年分の資源を使い切ってしまうという事実。
未来の地球、そして子どもたちの未来を明るいものにしてゆくためにも、今からでも私たちの行動を変えていかなければなりません。一人ひとりがそれをイメージし行動し、身の回りを変え社会を変えていくことがより重要になってきます。
その一端を握っているのがオーガニックコットン製品でもあります。地球のため、生産者のため、使う自分たちのため、そして社会や未来のために、本当のオーガニックコットン製品の魅力を知っていただき、より多くの方に使っていただきたいと思っています。
地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。