写真:レンガ工場で働く子どもたち(クルナ市)
バングラデシュの街の中を歩いていると、必ずと言ってよいほど目に飛び込んでくるものがあります。それは、レンガです。レンガは、家、ビル、塀や道路等に多用され、ここでは欠かすことのできない資材の一つです。この国では石・砂利の採掘できる場所や河川は極めて少なく、ほとんどの建築では粘土を材料としたレンガが使用されています。
首都ダッカの場合、半径25キロメートル圏内にレンガ製造工場が約1200箇所存在するとのことです。レンガ産業は同国GDPの1%に寄与し、100万人の雇用を生みだす産業となっています。
レンガ製造工場で働く人たちの姿
レンガ製造工場は、借地料の安い都市郊外に多く位置し、黒い煙が立ち上る煙突を数多く見ることができます。この国は低地が多く、雨季になると雨水の浸水や洪水等で、工場の稼働できる時期が限られています。そのため、乾季の半年程の間に働く、労働者が多くなります。
レンガ造りの全工程は、ほとんどが人の手によって行われます。粘土を型枠に入れて型をとる人、レンガを焼く人、焼いたレンガを運ぶ人。頭に10個以上のレンガを載せて汗だくで運びます。子どもや女性も同様に働きます。
給料は歩合制が基本となっています。例えば何往復レンガを運んだかで給料が支払われる仕組みになっており、これは彼らがレンガ工場で働くためのインセンティブの一つとなっているようです。労働者の給料は、100~120タカ(130円~160円程)/日で、労働時間は10~12時間程/日が平均のようです。ちなみに、粘土レンガの値段は8タカ(10円)程度で取り引きされています。
レンガ製造工場がもたらす環境問題
レンガ産業はバングラデシュ国内における最大の温室効果ガス排出源であると同時に、年間350万トンもの石炭を使用し、レンガを焼く際に発生するガス、粉塵等が深刻な大気汚染の問題をもたらしています。特に、エネルギーをたくさん消費するタイプのレンガ製造窯が多く使用されていることが、石炭使用量の増加、そして温室効果ガス排出を増大させる要因となっています。
また、レンガ産業は年間4,500 万トンの粘土を掘削しているため、毎年8万ヘクタールの農地が減少していると言われています。さらに、製造工程で廃棄となるレンガの量が多く、その適正な処理も重要な課題となっています。
クリーンで労働者が安全に働けるレンガ工場を目指して
政府のクリーンなレンガ製造を目指した政策・法規制の制定により、エネルギー効率の良い窯の導入や、農地減少をもたらす粘土採掘に代わる、産業廃棄物等をレンガ材料にする技術の導入が進められています。
しかし、財源の制約や、環境に配慮したレンガ製造に携わることのできる人的資源不足が理由で、クリーンなレンガ製造が全国へ浸透していくには少し時間がかかりそうです。この中で多くの労働者たちは、レンガを焼く際に発生するガス、粉塵による健康面へのリスク、長時間労働・低賃金等の厳しい労働環境の中での作業を余儀なくされています。
今後、JEEFとしては、環境教育という技能を活用した人材育成の視点から、クリーンで安全に働けるレンガ製造工場へ改善していけるよう、レンガ製造工場で働く子どもたちを支援する環境教育プログラムの開催等を検討していきたいと考えています。
文責:佐藤秀樹(国際事業部チーフコンサルタント)
参考文献: バングラデシュ国無焼成固化技術を使ったレンガ事業準備調査(BOPビジネス連携促進)報告書(2014年1月)、独立行政法人国際協力機構(JICA)、亀井製陶株式会社、株式会社アルセド
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