文:佐藤秀樹(国際事業部チーフコンサルタント)
女性が主体の環境配慮型農法
開発途上国では農業に従事している人の割合が多く、それが国の経済基盤や生活を支えています。しかし、農作物を仲介業者等に公平な価格で買取ってもらうことができない傾向が強く、農業者の収入には限りがあります。そのため、自分たちが消費するだけの野菜を中心とした多品目栽培を家庭菜園で行っています。これらは、農家の家計を支えると同時に、家族の栄養改善にも役立ちます。
特に野菜の栽培・維持管理では、女性が従事していることが特徴です。通常、家庭菜園は栽培面積の規模が小さく農業資材は少なくて済むので、家畜の排せつ物や余った植物で堆肥をつくり、土壌の肥沃化を図れます。また、ハーブ・香菜のエキスを利用して自然農薬をつくり病害虫を防除する等、極力、農薬や化学肥料を使わずに栽培することができます。
バングラデシュ沿岸流域 栽培環境を工夫で改善
バングラデシュ農村部でも女性が中心となって、トウガラシ、タマネギ、ニンニク、カボチャ、豆類等を家庭菜園で栽培しています。以前、家庭菜園の支援活動をした、ある沿岸流域農村部は、塩害がひどく低地であるため浸水被害も頻繁に起こり、野菜の栽培環境が十分に整っていない場所でした。そのため、牛糞や稲わらで堆肥をつくり土壌を中和させることや、ユウガオの天井栽培等を行うことで、安定した栽培環境や栄養の改善へ寄与することができました。
家庭菜園の持つ多面的機能
こうした家庭菜園での農の営みは、家計を維持することに加え、次のような様々な多面的機能も持っています。
家庭菜園の多面的機能
- 保健的機能
- 安全な多品目野菜を食べることで健康を維持することができる。
- 社会的機能
- 各家庭でつくられた農産物が一つのコミュニティの中で物々交換され、栽培の知識・経験に関する対話を通じて、地域の活性化をもたらす。
- 文化的機能
- 地域固有の野菜を使った料理をつくることで親から子への伝統の継承をもたらす。
- 精神的機能
- 家族皆が参加することで共同の芽が形成され、心を潤してくれる。
- 環境的機能
- 堆肥や自然農薬を使用して周囲の環境に配慮する。
開発途上地域では、家庭菜園が社会的・文化的要素を含んだ食料基地として、人々の貧困緩和に大きく貢献していると言えるでしょう。
家庭菜園の存在意義をもう一度見直そう!
このような家庭菜園の持つ多面的機能を考慮に入れた地域づくりを意識していけば、安全・安心な農作物を生み出し、消費者の自然志向への関心を引き寄せます。また、生態系保全・緑化や環境教育の場として積極的に活用していくことで、住民の環境保全に対する意識向上につながると考えられます。
行政やNGO等とも協力しながら、これらの多面的機能を活かし、地域の活性化を図る起爆剤として機能していけるよう、家庭菜園の存在意義をあらためて考え直す必要があると思います。
ワークシート
私は自宅(千葉県松戸市)で家族と共に周年家庭菜園をしています。その際、家庭菜園カレンダーと作付マップを作成すると、連作障害(※)の防除や、次年度の植え付け野菜を考える時に便利です。ぜひ、皆さんも作ってみて下さい!
※ 連作障害:同じ場所に同じ野菜を栽培することで土壌中の養分不足や病害虫が多くなることで発生する。
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地球のこどもとは
『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。